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プロジェクト研究: 平成26年度採択課題一覧

 

研究課題 母親の労働供給と保育・家庭政策に関するミクロ実証分析
研究代表者 山口慎太郎(マクマスター大学)
研究分担者 神林 龍(一橋大学経済研究所), 田中敦子(カルガリー大学), 朝井友紀子(東京大学社会科学研究所)
日本女性の就業率は、先進国最低水準であり、その大きな特徴に出産前後の離職率が特に高いことが挙げられる。 本研究では、何が出産前後の就業を妨げているのか、また、政策によって就業率を上げうるのか、政府統計ミクロデータを用いて実証分析を行う。 研究では特に二つの政策に着目する。 一つ目は保育政策である。保育所の利用可能性を上げることで、母親の労働供給率がどの程度上昇するのか分析する。 二つ目は育児休業政策である。育児休業政策が母親の労働供給に与える影響を評価するとともに、これまであまり分析されなかった、企業の労働需要に与える影響も計測する。 加えて、これら二つの政策が雇用に及ぼす効果が、その組み合わせ方によってどのように変化するのか検証する。 二つの政策の組み合わせによる効果を分析した研究は、研究代表者の知る限り過去に例がなく、学術的意義が高い。

 

研究課題 ミクロデータを用いた設備投資の促進・阻害要因の解明と投資促進政策への応用
研究代表者 嶋 恵一(三重大学)
研究分担者 浅子和美(一橋大学経済研究所), 中村純一(日本政策投資銀行), 外木好美(神奈川大学), 笠原哲也(立教大学)
成長が鈍化した先進国経済において、民間企業の設備投資の促進は重要な政策課題である。 しかし、その効果的な手段(減税等)について学術的な意見は必ずしも一致しない。 ミクロ理論に立てば、企業の設備投資はその投資価値に基づいて最適に決まるといえる。 しかし、産業組織論の研究から、産業の競争状態がミクロ的な設備投資に影響を与え、本来の最適投資量から見て過大、または過少にかい離する可能性が指摘されてきた。 金融市場と企業の設備投資との関係も同じく重要であり、ミクロレベルの設備投資が企業のキャッシュフローから独立か否かに関する研究は非常に多い。 近年、企業の流動性保有行動の分析に注目が集まり、流動性保有が設備投資を促進するか、抑制するかに関する理論付けと検証が行われてきた。 本研究ではミクロデータを用いて投資の促進阻害要因を解明する。

 

研究課題 ロシアにおける居住環境・消費水準・男女分業と出生動向
研究代表者 道上真有(新潟大学)
研究分担者 五十嵐徳子(天理大学), 雲 和広(一橋大学経済研究所), 武田友加(早稲田大学経済研究所)
本研究は、体制移行を経たロシアにおける女性の出性行動の先駆的分析と、その成果の国際的発信とを意図する. 具体的には、ロシア独自の家計調査データ Russia Longitudinal Monitoring Survey (RLMS) の個票を用い、 家庭内分業・育児環境・労働市場・資産状況等に関するミクロ(個人/家計)レベルの要因と、その帰結としての個人/家計の出生行動との関係を、 人口経済学・労働経済学そして社会学的視点から分析する. ロシアの人口動態分析において決定的に欠落してきた「出生行動に家庭内分業・資産状況が影響を与える」という視点、 そして資産状況・消費行動・ジェンダーといった、これまで個別に扱われてきた諸側面を統合しようとするものである.

 

研究課題 ハンガリーにおける公的年金制度改革:部分的民営化の失敗と新たな課題
研究代表者 柳原剛司(松山大学)
研究分担者 ガール・ロベルト(ハンガリー中央統計局人口研究所), 佐藤嘉寿子(帝京大学冲永総合研究所), 岩﨑一郎(一橋大学経済研究所)
ハンガリーは他の中東欧諸国に先駆けて1998年に公的年金制度の部分的民営化・積立方式の部分的導入を行った国であったが、 2011年、年金制度は実質的に再国有化され持続可能な制度とはならず,その試みは終了した。 本研究は,持続可能な公的年金制度の構築という統一した問題意識に基づき、研究代表者ならびに分担者個々の視点から同国の公的年金制度を分析し、 部分的民営化の試みの総括と持続可能な制度の構築に向けた必要な施策の明確化を行うことが目的である。 公的年金の部分的民営化の事例およびその研究は少なくないが、同国のように10年以上の実施を経て部分的民営化・積立方式が廃止されたケースを、 その実施期間すべての財政・拠出・運用実績等のデータを利用しつつ包括的に分析することを目指す本研究は、 移行経済研究としても年金研究としても十分に意義を有するものである。

 

研究課題 立地要因を考慮した企業・事業所活動の経時的特性に関する研究
研究代表者 森 博美(法政大学)
研究分担者 坂田幸繁(中央大学), 木下千大(一橋大学経済研究所), 宮川幸三(慶応義塾大学産業研究所), 栗原由紀子(弘前大学), 長谷川晋一(新潟大学), 伊藤伸介(中央大学)
本研究の目的は、企業・事業所立地などの空間要因が、業況感や設備投資判断などの企業マインドや実際の生産・販売活動に対して与える影響、 およびそのアウトプット(収益など)に及ぼす効果を測定し、それらの経済的変化の捕捉を試みるものである。
これまで、研究代表者は、場所特性変数の事後的な付加による調査票情報の拡張可能性などに関する基礎的・方法論的研究を行ってきた。 また、本研究の研究分担者は、昨年度に貴研究所の事業助成を受けて法人企業統計調査および法人企業景気予測調査のパネル化とそれら相互のリンケージ、 およびこれを用いた企業行動分析に関する研究を遂行してきた。 本研究は、調査票情報からのパネルデータに位置情報を付与することにより、企業行動のパネル的特性のみならず企業・事業所立地による影響の解明を特色としている。

 

研究課題 企業の実績と雇用政策が家計の就業・資産選択に及ぼす影響に関する計量分析
研究代表者 林田 実(北九州市立大学)
研究分担者 児玉直美(一橋大学経済研究所), 出島敬久(上智大学), 伊藤伸介(中央大学), 佐藤慶一(専修大学), 村田磨理子((公財)統計情報研究開発センター研究開発本部)
本研究の目的は、企業の財務状況や雇用政策を踏まえた上で、 ミクロデータを用いて個々人の社会人口的特性の変容による就業と賃金所得の動態変化を把握するだけでなく、 それが資産選択等の個々人のライフスタイルに与える影響を定量化することである。
本研究においては、政府統計ミクロデータを用いて、 企業の業績・財務状況の観点から労働供給や賃金所得とライフスタイルとの関連性について精密なモデル化を行うことによって、 統計的・計量経済的な検討を行う。 さらに、本研究では、ワーク・ライフ・バランスの観点からわが国における雇用政策を図るために、 個人の就業行動や賃金所得が資産選択や消費行動といったライフスタイルに及ぼす影響を明らかにすることを目指している。 それによって、企業業績等の企業動向や雇用政策を反映した形で、家計の就業・資産選択を明らかにすることが可能になっている。本研究の特色はここにある。

 

研究課題 朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の長期経済統計の作成と分析
研究代表者 文 浩一(大阪大学)
研究分担者 斎藤 修(一橋大学経済研究所), 柳 学洙(ジェトロアジア経済研究所)
本研究は、『アジア長期経済統計(ASHSTAT)』(監修者:尾高煌之助・斎藤修・深尾京司)の研究・出版企画の一環として、 朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)の経済統計および関連情報を国民経済計算(SNA)との対比の中で収集し、長期系列の推計を試みることにある。
2013年度のプロジェクト研究助成「『アジア長期経済統計・韓国巻』に関する長期経済統計の作成と分析」により、 朝鮮半島については植民地期と大韓民国(韓国)に関する長期経済統計の系列整備・推計の作業をほぼ終えることができた。
本研究は、残された課題である北朝鮮を対象に統計整理と推計作業を行い、「Korea巻」としての出版を目指すものである。

 

研究課題 日本及び海外における若手・女性経済研究者の実態分析
研究代表者 安部由起子(北海道大学大学院)
研究分担者 青木玲子(一橋大学経済研究所), 上田貴子(早稲田大学政治経済学術院), 小原美紀(大阪大学大学院), 臼井恵美子(一橋大学経済研究所), 吉田恵子(桃山学院大学), 高橋新吾(国際大学), 高橋アナマリア(神戸大学), 三好向洋(愛知学院大学)
学術研究のグローバル化と国際競争の進展を背景に、研究業績の重視や任期制・公募制の導入、研究者の女性比率の上昇等、 日本の若手研究者の置かれた研究環境は近年大きく変化している。 本課題では、日本の若手・女性研究者の現状と課題を分析するため、各種統計資料・文献を精査するとともに、 経済学研究者に対する独自のアンケート調査実施の準備作業を行うことを目的とする。 具体的には本研究を、経済学研究者への大規模アンケート調査分析(対象として日本経済学会員を想定)を実施するための準備研究と位置づける。
アメリカでは経済学分野での教育研究における男女差に着目する研究、Women in Economics が積み重ねられており、AER等の査読付き学術専門誌に多くの研究論文が掲載されている。 一方で、日本では経済学研究者による自らを対象とした研究は稀である。本研究では女性・若手経済学研究者に着目し、日本における研究環境の変化が (1)研究者のキャリア形成、(2)研究支援ニーズ、(3)家庭生活等にどのような影響を与えたか、 多面的に分析可能なアンケート調査を設計し、個票データを使用したミクロ計量分析を行う。

 

研究課題 「厚生主義」批判と非厚生主義的定式化の可能性に関する規範理論的研究
研究代表者 吉田博之(日本大学)
研究分担者 後藤玲子(一橋大学経済研究所), 吉原直毅(一橋大学経済研究所), 鈴村興太郎(一橋大学経済研究所), 蓼沼宏一(一橋大学経済研究所), 小塩隆士(一橋大学経済研究所), 坂本徳仁(東京理科大学)
ケネス・アローの社会的選択理論やポール・サミュエルソンの顕示選好理論を引くまでもなく、 新古典派経済学の標準的理論体系は、個人間比較不可能な序数主義的効用理論を理論的前提として構築されている。 ゲーリー・ベッカーや行動経済学の発展をもとに、「経済人」の仮定そのものは限定合理性や利他性などを含むかたちで、拡張されたものの、この理論前提は基本的に踏襲されている。 だが、アマルティア・センが「厚生主義(welfarism)」(1979年)の語をもって喝破したように、現存する経済制度の規範的特性を分析し、 望ましい経済制度を設計するにあたっては、個人間比較不可能な序数主義的効用理論は適切とはいいがたい。 本研究の目的は、厚生経済学と政治哲学の連携を通じて、次の2つの問題を解明することにある。 第一は、センによる厚生主義(welfarism)批判の規範的意味と分析的射程を解明すること。 第二は、潜在能力アプローチ、衡平性(equity)公平性(fairness)、相互性(reciprocity)などに関する近年の研究をもとに、 経済学理論における非厚生主義的定式化の可能性を探究すること。

 

研究課題 Productivity Race in Manufacturing between China and India - A Comparative Production Function Analysis
研究代表者 Dodla Sai Prasada RAO(The University of Queensland)
研究分担者 Harry X. Wu(一橋大学経済研究所), Boon Lee(QUT Business School)
The emergence of China and India as the major forces in the world economy has aroused a widely spread interest in a comparison between China and India (Bosworth and Collins, 2008; Lee, Rao and Shepherd, 2007; Prasad and Rajan, 2005; Nagraj, 2005; Hulten and Srinivasan, 1999). However, there have been very few studies that make industry level comparison since the earlier work by Lee et al (2007). The main objective of the paper is to undertake a comprehensive industry-level study involving a direct comparison of the levels of output, output per worker, capital deepening, and total factor productivity in 17 Chinese and Indian manufacturing industries, measured in 1995 India/China PPPs. This is not only redresses the price distortion problems with the mid-1980s benchmark (Lee et al 2007), but also extends the earlier partial comparisons to a full comparison in a production function framework.

 

研究課題 近代日本における歴史的IO表(産業連関表)の推計と分析
研究代表者 尾高煌之助(一橋大学経済研究所)
研究分担者 攝津斉彦(武蔵大学), 原 康宏(広島経済大学)
この研究は、明治以来の数時点(たとえば、1906年、1919年、1935年)における歴史的産業連関表の(再)推計と、その結果を利用した日本経済の構造分析とを目的とする。 戦前期の産業連関表を推計した先行研究としては、たとえば西川俊作・腰原久雄両氏による 「1935年の投入産出表―その推計と含意―」(中村隆英編『戦間期の日本経済分析』山川出版社、1981年)があげられるが、 いずれも産業分類の粗さ、使用する資料の不足、推計過程の強引さなど、かなり無理をして結果を得ている。 そこで本研究は、先行研究が用いた推計方法を吟味し、できるだけ細かい産業分類で産業連関表を推計することを目指す。 さらに、推計結果を利用して、初期工業化における産業構造の変化とその歴史的意義の分析を試みる。

 

研究課題 Mapping and Economie Development: Spatial Information Matters
研究代表者 Dongwoo Yoo (West Virginia University)
研究分担者 Katsuo Kogure (Institute of Economic Research, Hitotsubashi University), Chiaki Moriguchi (Institute of Economic Research, Hitotsubashi University)
The history of surveying and mapping can be traced back to the earliest written documents of civilization. Maps, which record spatial information, are critical for all human activities including economic development. The cartographer's rule is simple: "you may heve no data without a map." The efficiency of development can be improved significantly if economic promoters can obtain prior knowledge of the region with a good map. In fact, the history of mapping suggests that systematic economic development, but wars. Topographic maps and the geodetic control used for mapping have long been considered of enormous military value, thus classified as military secrets. Mapping, however, was also critical for cabastral (tax) and civilian purposes and the secrecy pf mapping became obsolete in Europe. In contrast, the principle of military secrecy in mapping still pervades in many developing countries to this day. For example, in most Latin American countries, the military forces hold the legislated national monopoly of geogetic surveys and mapping services. Limited availability of mapping data discourages economic development. This project investigates the relationship between mapping and economic development in Asia (especially Japan and former Japanese colonies) and expands the analysis across the world.

 

研究課題 Empirical Analysis of Household Income Distribution Using Government Statistical Micro Data
研究代表者 Ngee Choon Chia (National University of Singapore)
研究分担者 Albert Ka Cheng Tsui (National University of Singapore), Yukinobu Kitamura (Institute of Economic Research, Hitotsubashi University)
This project explores causes and consequences of increases in income inequality over the period of 1984 and 2004 in Japan, using the government statistical micro data, National Survey of Family Income and Expenditure (NSFIE). NSFIE contains detailed income sources which include pension incomes, inter-household transfers (both in cash and in service), dissavings and decumulation of financial and real assets. This allows us to compare the economic well-beings of different income groups.
One of the main explanations for widening income inequality is population aging. We will explore income inequality of the elderly using the micro data by gender and age group. We will calculate Gini coefficients and other income inequality indicators for different household types and for different elderly groups — young-old, medium-old and old-old elderly.
We will also examine the changes of wealth holding over life-style. In addition, if time allows, we will shed a light on the poverty issue of the elderly single women.

 

研究課題 Productivity in Japanese plants: Buyer-Supplier Relationships, Agglomeration, and Location Decisions
研究代表者 Rene A. Belderbos (University of Leuven)
研究分担者 Kyoji Fukao (Institute of Economic Research, Hitotsubashi University), Kenta Ikeuchi (NISTEP), Young Gak Kim (Senshu University), Hyeog Ug Kwon (Nihon University)
The envisaged research includes two projects focusing on the broad relationships between plantproductivity, buyer-supplier relationship and agglomeration, and location and entry. It follows up onprevious work by the research team on plant productivity in Japan with particular attention to R&D spillovers (Belderbos et al., 2013). In that research, we found that R&D spillovers in Japan are importantfor productivity growth, but that the exit of productive plants in Japan has reduced the scope of suchspillovers.
Spillovers were found to decay in geographic distance. In the currently planned researchprojects, we build on prior work to examine: 1) the role of agglomeration effects and spillovers on thelocation of new plant entries, with special emphasis on potential adverse selection; 2) the role of R&D spillovers in specifically identified buyer-supplier relationships.

 

研究課題 子育て支援や税制が家計行動・就業行動に及ぼす影響の研究:日本の実証分析
研究代表者 宮崎毅(九州大学)
研究分担者 坂本和靖(群馬大学), 森田(山本)陽子(名古屋市立大学), 大野太郎(尾道市立大学), 北村行伸(一橋大学経済研究所), 木下千大(一橋大学経済研究所)
日本では、少子高齢社会にあって、労働力の減少が見込まれる中、女性労働の有効活用は長らく求められてきた。 1990年代以降、仕事と家庭生活の両立のため、特に乳幼児子育て期の女性の就業機会向上のための施策として、様々な取り組みが行われ、女性の継続就業率の改善が進んでいる。 しかし、近年では、「寿退職」、「出産退職」に加えて、「小1の壁」(子どもの小学校就学時時における継続就業の問題)が問題視されている(労働政策研究・研修機構 2013)。 これは、 i) 保育園在学時に比べ、就学以降、下校時間が早いため、放課後の時間や学校休業日に、子どもを学童保育に入れる必要が、その受け入れ先がないため就業をあきらめる、 ii) PTA活動や学校行事などが平日開催であるため、就業時間を抑制するなどの問題をさす。 本研究では、女性の就業継続について子どもが小学生になるまで分析を拡張する(坂本・森田・木村 2013)。
また、欧米諸国の1980年、90年代の税制改正では、イギリスやフランスをはじめ一貫して最高税率を引き下げるような改正が行われ、税制による非効率を小さくする試みがなされた。 こうした税制改正が所得税の再分配効果を弱めているのかに関する研究が、イギリスやアメリカ、ノルウェーなどで蓄積され、累進度の減少が再分配効果を弱めているという研究もあれば、ほとんど変わっていないという研究もある。 一方、日本でも80,90年代にはブラケット・クリープや高い最高税率による重税感や経済への悪影響が提起され、84年の税制改正以降、90年代終わりまで一貫して所得税の税率引き下げとブラケットの縮減が行われた。 こうした税制改正が所得再分配効果を弱めたのかに関しての研究も行われているが、個票データを用いた分析は数が少ない。 また、税制の所得再分配効果には、税率効果と課税ベース効果の二つがあるが、諸外国を含め、両者を区別した分析はほとんど行われていない。 Miyazaki and Kitamura (2014)では、税率と控除による所得再分配を調べており、近年一貫して所得税の再分配効果が弱まっていること、税率の低下と控除の拡大を同時に実施する場合には、 控除による再分配効果は弱まるが税率の再分配効果はむしろ強化されることなどを明らかにしている。 一方、近年ではこうした再分配政策が年齢や所得階層によって異なる影響を与えることが指摘されている。 例えば、Fukawa andOshio(2006)では、近年の再分配政策は若年層と⾼齢層に異なる影響を与えること、世代間の所得移転が行われていることなどを明らかにしている。 本研究では、年齢階層や所得階層によって税率と控除による所得再分配効果がどのように異なるのかを明らかにする。 さらに、2000年代半ばまで特別減税が行われていたが、この特別減税が所得税の再分配効果を弱めている可能性があることから、特別減税の影響も考察する。 なお、社会保険料負担の家計への負担が近年重くなっていることから、社会保険料による再分配効果についても分析する。