カザフスタンの人口変動

 

 

 

岡 奈津子

(アジア経済研究所)

 

 

はじめに

1. ソ連の人口センサス

 1-1. センサスの歴史

1-1-1. 帝政ロシア末期とソ連初期のセンサス

1-1-2. 1930年代の「極秘」センサス

1-1-3. 戦後のセンサス

 1-2. センサスの定義

1-2-1.「実在」人口と「定住」人口

1-2-2.都市人口と農村人口

 1-3. センサス以外の人口統計

2. カザフスタンの人口変動

 2-1.センサスおよび統計集のデータ

2-1-1.領域の変化

2-1-2.全人口の値

 2-2.人口変動の歴史

2-2-1.1910〜30年代の人口喪失

2-2-2.戦後の人口移動

2-2-3.独立後の変化

おわりに

参考文献

 

(表1)全人口

(表2)男女・都市農村別実在人口

(表3)都市・農村人口を構成する居住区の規模別分布

(表4)男女・都市農村別の実在・定住人口比較

(表5)民族別都市・農村人口

(表6)年齢構成

(表7)民族構成(1926〜89年)

(表8)民族構成(1998〜95年)

(表9)出生率・死亡率・自然増加率(1000人あたりの出生・死亡・自然増加数)

(表10)民族別出生・死亡・自然増加率

(表11)流入・流出者数





 

はじめに1

 

本稿の課題は、旧ソ連中央アジアの広大な国、カザフスタンの人口変動を分析することである。カザフスタンは18世紀から徐々にロシアの支配下に入り、1860年代にロシア帝国の領土となった。ソ連邦成立後、連邦を構成する一共和国となったが、1991年、その崩壊によって独立し現在に至っている2。そのため、カザフスタンの人口を分析する材料としては、ソ連時代に行われたセンサスが中心となる。なおカザフスタンでは1999年2月25日から3月4日にかけて、独立後初めてのセンサスが実施される予定である3

旧ソ連のセンサスは、定義や実施方法などで国連の勧告とはかなり違っていた部分もある。また、その結果の公表は、国外はおろか国内においてもかなり制限されていた。しかしソ連邦崩壊前後、1930年代のセンサスなどそれまで極秘扱いであったり一部しか公開されていなかったデータが、専門家の手によってあらたに公表されている。

ソ連の人口については豊富な先行研究がある。カザフスタン一国をとりあげたものは非常に少ないが、中央アジア4の人口問題、とくに中央アジア諸民族の出生率の高さは多くの研究者の関心を集めてきた。なかでも、ムスリム人口の増加によるソ連全体の民族構成の変化と、それが労働力の供給、軍隊の構成などに与える影響が注目されていた。

旧ソ連の全人口の分析は本稿の対象外であるが、センサスの全体像は押さえておく必要がある。そこで本稿では、まずソ連時代のセンサスの歴史を振り返り、それを利用するさいに注意すべき点について述べる。次にカザフスタンについて、人口変動に大きな影響を与えた歴史的経緯に触れつつ、人口の変化とその特徴を明らかにしたい。