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所長挨拶

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 一橋大学経済研究所(Institute of Economic Research; IER)は、設立時の設置目的である「日本及び世界の経済の総合研究」を目指し、30名ほどの研究スタッフを擁して、厳密で周到なアプローチをとりつつ、同時に幅広い関心・好奇心を持って、先進的な研究活動に取り組んでいます。

 1940年の設立以来、日本の経済社会に関する歴史的統計データの構築とその提供が、IERの活動の大きな部分を占めてきました。1980年代以降はさらに研究領域を広げ、データと結びついた高度な理論・実証研究や政策研究を展開し、多くの優れた成果をあげてきました。現在、個々のスタッフが高い水準の研究を行うことに加えて、大型研究プロジェクトを立ち上げ、所内に複数の機構・センターを設置して、国際的に開かれた研究ネットワークのハブとしての役割を担った研究活動を推進しています。2022年度においては、コロナ禍の下にあっても、合計34名の特任教員/外国人教員/客員研究員を経済研究所に迎えており、そのうち26名が、海外研究者(外国大学所属の日本人研究者を含む)です。また、ほぼ同数の国内研究者が、非常勤研究員としてIERスタッフとの共同研究に携わっています。

 2010年度には、文部科学省の共同利用・共同研究拠点制度の下で、「日本および世界経済の高度実証分析の拠点」に認定され、以降は政府統計のミクロデータを始め、日本を中心とした経済社会に関する多様な統計データに効率的にアクセスできる環境を、内外の広範な研究者コミュニティに対して提供しています。同時に、公募による共同利用・共同研究プロジェクトを推進することにより、内外の研究者に対して、共同研究のプラットフォームを提供しています。2021年には、共同利用・共同研究拠点の期末評価において、最も高いS評価を得ると同時に、2022~2028年度の期間について新たに拠点としての認定を受けました。

 またIERは、基礎研究の深化に注力するだけでなく、日本と世界が今日直面している喫緊の政策課題に対しても率先して取り組んでおり、わかりやすく有益な形で経済学的分析を社会に提示することで、日本の経済社会の建設的で具体的な政策議論に資することを目指しています。

現在の主要な研究テーマ
● 日本経済の生産性の測定とその決定要因の探求。海外研究者・経済産業省との連携による生産性の国際比較のためのデータセット構築
● 日本の所得不平等の長期データの推計とその変動要因の分析。欧米諸国のデータとの国際比較
● 個人の認識と経済行動の関係に関する大規模サーベイ調査による分析(健康意識・幸福観の関係、女性や高齢者の働き方、貯蓄と資産選択)
● インフレ予想や経済の先行きの不確実性に関するサーベイ調査による分析。経済の不確実性指標の構築
● 認識にバイアスを持つ経済主体間の長期的関係におけるベイズ学習の役割
● 時系列モデル・ベイズ統計手法の開発とマクロ経済学・ファイナンス分析への応用
● 資産バブルのマクロ経済分析と政策的なインプリケーション
● POSデータを用いた財価格変動の分析
● 企業の製品市場と労働市場についての競争の相互連関の分析
● フィールド調査に基づく開発のミクロ実証研究(パキスタン、インド、バングラデシュ、ミャンマーなど)
● 緊急時の政府介入が中小企業の資金調達と経営パフォーマンスに及ぼす影響(大規模自然災害、コロナ禍など)
● グローバル化が国内の労働環境や環境問題に与える影響
● ウクライナ侵攻後の経済制裁下のロシア経済分析。ロシア・旧ソ連の人口諸問題(少子化、地域間移動)
●『アジア長期統計』(全12巻予定)のデータベース完成と提供の開始

過去の主要研究のハイライト
● 日本の『長期経済統計』(東洋経済新報社、全14巻)と我が国の長期経済発展に関する基礎研究
● アジアの諸国の経済発展に関する実証的研究と関連する統計データベース(『アジア長期統計』)の構築
● 厚生経済学・社会選択理論に関する先駆的研究
● 世代間問題研究機構を中心とする年金制度改革への貢献
● 日本の産業政策に関する経済学的経済分析
● ソ連(ロシア)・東欧諸国の経済に関する基礎研究

 
2023年4月1日
 
一橋大学経済研究所所長
祝迫 得夫