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経済研究所の沿革

一橋大学経済研究所は、1940(昭和15)年4月1日、東京商科大学附属図書館内に設置された東亜経済研究所に始まります。当初は官制でなく、東京海上の会長であった各務謙吉の奨学寄付金をもとに、学内に研究所を設置し、「東亜諸国の経済の理論的、実証的研究」を行うことを計画していた上田貞次郎学長が初代所長に就任しました。当初は専任の研究員は3人で、所員の主力は学部の兼任教員でした。

1940年5月、上田の急逝により、学長の高瀬荘太郎が2代目の所長に就任しました。高瀬は研究所の官制化と支援体制の強化に努め、1940年11月に東京商科大学奨学財団設立期成会を結成、1942年には寄付金が600万円に達し、6月に奨学財団の設立が認可されました。これに先立って、1942年2月に官制が施行され、わが国最初の国立の経済研究所が「東亜における経済に関する総合研究」を行うため大学に附置されました。赤松要を研究部長に『東京商科大學東亞經濟研究所研究叢書』、『東亜経済研究年報』の企画が進みました。時勢のなかで、シンガポールに南方総軍軍政総監部調査部が置かれ、多くの所員が南方調査に従事しました。

第二次大戦後の抜本的改革とともに、東亜経済研究所は経済研究所になり、研究目的も「世界各国の経済に関する総合研究」に改められました。1947年3月に大塚金之助が所長に就任し、研究所の再編という困難な課題を担うことになりました。1949年5月、国立学校設置法による新制大学の発足ととともに、一橋大学経済研究所となり、「日本及び世界の経済の総合研究」を目的とすることになりました。これが今日の経済研究所であり、11月には都留重人が研究所選出の初代所長に就任し、翌1950年1月には『経済研究』が創刊され、1953年8月からは『経済研究叢書』が、1957年からは『欧文経済研究叢書』が刊行され経済研究所の礎石となっています。

当時、都留は「経済研究所の構想」(1949年)で次のように述べています。最も力点を置いているのは「国民所得と再生産」で、この問題は、理論的、統計的・実証的、政策的な諸側面をもち、共同研究の利点も大きいので、多くの人が関わりをもつようにしている。その他に、統計学と計量経済学、アメリカ経済、ソ連経済等があり、経済古典の研究も高く評価して取り上げる方針である。これに日本経済が加わり、日本経済、国民所得、成長過程に関する統計的・実証的研究、ソ連、中国、社会主義経済に関する研究等は、学界をリードするものとなりました。1957年にはロックフェラー財団の援助で、大川一司をチーフとする国民所得推計研究会が組織され、その成果が全14巻におよぶ日本の『長期経済統計』(大川一司・篠原三代平・梅村又次編、1965~88年)に結実しました。

新制の経済研究所発足当時の研究部門は、アメリカ経済、ソ連経済、国民所得・再生産、統計学、古典経済の5部門でしたが、翌年に、日本経済が増設されました。その後、日本経済が第一、第二となり、英国及び英連邦経済、中国及び東南アジア経済が加わって9部門になり、1961年に国際経済、1977年までに、経済計測、経済体制、金融経済、現代経済分析が増設されて14部門にまで増えました。しかし、省令の改正とともに、1978~79年に、大研究部門制に再編成され、日本・アジア、米・欧・ソ連経済、現代経済、経済体制、経済システム解析の5大研究部門に改組されました。2015年には、今日の経済学分野における学問的潮流に対応すべく、「経済・統計理論」、「経済計測」、「比較経済・世界経済」、「経済制度・経済政策」、「新学術領域」から成る5研究部門への再編を行いました。

共同研究やプロジェクトは、もちろん研究部門や研究所の枠を超えて行われてきました。2000年には経済制度研究センターが設置され、国の内外の研究者・研究機関とのネットワークを大いに広げました。1964年に設置された日本経済統計文献センターは、2002年の拡充改組でミクロデータ分析セクションを設け、社会科学統計情報研究センターとなりました。同センターは総務省統計局と協力して政府統計ミクロデータの提供を行っています。また2007年には、世代間問題研究機構が発足し、多くの政府省庁との連携融合による最先端研究拠点の形成を目指しています。さらに、日本経済が直面する様々なリスクの実証分析拠点として、経済社会リスク研究機構が2014年に設置されました。SRI一橋大学消費者購買指数を定期的に公表しています。

金字塔ともなった『長期経済統計』の伝統を継承しつつ、1995~2000年には「アジア長期経済統計プロジェクト」が組織され、また1998年以降刊行を進めている『アジア長期経済統計』(全12巻予定)は、経済学界全体の知的財産とも言うべき本研究所の重要な業績と見なされています。1996~99年には科学研究費補助金・重点領域研究「統計情報活用のフロンティアの拡大」、2000~05年には「世代間利害調整プロジェクト」が立ち上げられました。こうした共同研究の実績をもとに、2003~07年には二つの21世紀COEプログラム「社会科学の統計分析拠点構築」、「現代経済システムの規範的評価と社会的選択」、及び学術創成研究「日本経済の物価変動ダイナミクスの解明」、特別推進研究「世代間問題の経済分析」が立ち上げられました。これらは『経済研究』30周年(1980年)の「回顧と展望」以降、理論的研究の強化、政策的視点の重視、あるいは理論と実証の相乗的な研究効果を包括した制度・政策研究を推進するなかで可能となった研究プロジェクトです。二つの21世紀COEプログラムを統合・発展させる形でグローバルCOE「社会科学の高度統計・実証分析拠点構築」も推進されました。その国際共同研究は、現在、一橋大学の社会科学高等研究院(HIAS) に引き継がれています。科学研究費補助金基盤研究(S)も相次いで採択されました。2010~14年度「途上国における貧困削減と制度・市場・政策:比較経済発展論の試み(PRIMCED)」、2013~2017年度「不動産市場・金融危機・経済成長:経済学からの統合アプローチ(HITREFINED)」、2016~20年度にはサービス業全体について生産性計測方法の抜本的改革と、これに基づく新しいサービス産業の経済学を構築することをめざした「サービス産業の生産性:決定要因と向上策(SSPJ)」が行われました。また、2014~16年度にかけては、JSPS頭脳循環プログラム「トランス・ポジショナルなケイパビリティ指標作成に向けた国際共同研究」も行われました。日本学術振興会「人文学・社会科学データインフラストラクチャ̶構築プログラム」の委託事業として、2018~22年度にかけては、政府統計に関するプロジェクトを実施し、国内外研究者コミュニティによる政府統計データやその集計・加工データの利活用を促進する総合的なシステム「一橋大学経済研究所データリポジトリ」を構築しました。

経済研究所は、21世紀になる頃から、「日本及び世界の経済の総合研究」に加えて、「独創的な世界最先端研究の推進」、「内外における研究者コミュニティの共同研究拠点・ハブの形成」を新たなミッションとして加えるようになりました。2010年度には、文部科学省の共同利用・共同研究拠点制度により「日本及び世界経済の高度実証分析拠点」に認定され、共同研究プロジェクト、センター等をコアにして、共同利用・共同研究拠点の実質が形成されています。2010~15年度の期末評価では、「A: 拠点としての活動は概ね順調に行われており、関連コミュニティへの貢献もあり、今後も、共同利用・共同研究を通じた成果や効果が期待される。」という総合評価を得ました。さらに、2018年度の中間評価および2021年度の期末評価の両方において、最も高い「S:拠点としての活動が活発に行われており、共同利用・共同研究を通じて特筆すべき成果や効果が見られ、関連コミュニティへの貢献も多大であったと判断される。」を獲得しました。また、新たに2022~28年度の期間の認定も受けることができました。

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