戦後中国の全国人口統計:

資料の吟味と時系列統計の推計の試み

 

Population Statistics of the Postwar China :

Attempts of Inquiring into Date and Time Series Estimate of China's Population

 

 

薛 進 軍 (大 分 大 学 経 済 学 部)

前田比呂子 (京都産業大学 外国語学部)

南 亮 進 (東京経済大学 経 済 学 部)

 

 

        はじめに

        T. 人口統計の展望

        U. 統計書と統計資料の吟味

        V. 存在する問題

        W. 推計作業の中間段階とその概略

         

        参考文献

        付録1 先行研究のまとめ

        付録2 中国人口・労働力統計に関するヒアリング

         

        【 統計資料 】

            表−1 各総人口統計とその比較

            表−2 増加人口の差

            表−3 中国の年央人口の推計

     

     

     




     

    はじめに

    1949年以降の新中国における人口の時系列の数値を推計するにあたり、総人口( 全国人口 )について、どのような統計数値が公表されているか、それら使用可能と思われる統計資料の選択、データ元、ベンチ・マークとなりうる年、使用する際の種々の問題点などについて検討していくことが必要である。その作業の過程については本稿の中で詳述するが、ここでその内容を簡単に要約しておくと以下のようになる。

    まず、中華人民共和国の時期の総人口統計にはいくつかの関係省庁によるものがあり、それぞれ統計の取り方や年次が異なる。主要な年鑑類等の統計資料を比較検討した結果、目下、公表されている総人口統計数値には、主に公安部系統のものと国家統計局系統のものとがあることが明らかになった。公安部が担当する統計の内容は、戸籍登録に基づくもので、年末人口数値であり、1949年以降現在までの各年の数値が公表されている。一方、国家統計局が担当する統計の内容は、(1)1953年、1964年、1982年、1990年と過去4回にわたって実施された人口センサス結果を基にして修正した年末人口数値、(2)センサス結果と1%人口抽出調査を基に、毎年の人口変動サンプル調査及び人口自然増加数( 7月1日から12月31日まで )を用いて修正した各年人口数値がある。但し、1953、1964年の人口センサスの調査項目が少なく、それ故厳密な修正は困難であるため、国家統計局編『 中国統計年鑑 』に公表されている1982年以前の人口数値は、公安部の統計数値が用いられている。1982 − 89年の数値は1982、1990年人口センサスに基づく修正数値であり、1990年以後の数値は毎年実施されている人口変動調査に基づく修正数値である。すなわち、今まで『 中国統計年鑑 』に公表されている人口数値は、公安部の戸籍統計、国家統計局の人口センサスと調査、同じく国家統計局の修正値という、2系統、3種類である。

    検討を要する課題は、これら2系統、3種類の統計数値をどのように選択し、利用していくかということである。 検討の詳細は後述するが、我々は、1992年以後は国家統計局系統の人口統計数値を使用する。1981年以前の年次別は過去のセンサス結果をベンチ・マークとし、公安部の戸籍人口統計の動きを参考にし、人口数値を推計する。

    本稿は4つの部分から構成されている。第1節は中国における人口統計の機関及び統計収集ルートの紹介である。第2節は人口統計の資料の比較検討である。第3節は人口統計資料に存在する問題の展望である。第4節は我々の推計作業の紹介である。なお最後に付録として、先行研究の展望及び中国でのヒアリングの記録が掲げられている。