付録2: 中国人口・労働力統計に関するヒアリング

 

    時 間 : 1996年10月25日

    場 所 : 中国国家統計局人口・就業司

    参加者 : 薛 進軍、張為民司長、総合処の賈処長、李副処長ら

 

1.中国の人口統計システムと統計機関

    中国では人口に関する統計機関が公安部、国家統計局、国家計画生育委員会、民政部という4つの部門がある。(1)公安部は戸籍制度の生育、死亡などの登録データを利用して月、年の人口統計を発表している。(2)国家統計局は正確な、細かな人口数を掌握するため、現代人口学と人口統計の方法に基づいて、10年一回で人口センサスを行う。人口センサスの間に、1990年から毎年人口変動調査および不定期的な1%の人口センサスを実施している。(3)国家計画生育委員会は人口統制のため、性別・年齢別の人口、特に婦人の生育率、子どもの人数等の調査を行っている。(4)民生部は婚姻登録の部門であるので、婚姻状況、家族状況などの統計を発表している。

    以上の四つの人口統計機関が共存しているので、統計機関および統計基準、方法によって人口統計の数字が異っなている。国家統計局の任務一つとしては、人口センサスの結果に基づき、いろいろな人口統計( 主な公安部の戸籍統計 )を参考にし、人口数字を修正する。

 

2.戸籍統計と人口センサスの差

    (1)戸籍人口数とセンサス人口数。公安部の人口統計は戸籍に基づいた統計である。これは毎年の年末の数字である。人口センサスは10年に1回である。ただし、人口センサスの間隔間に、毎年1回の人口変動調査および1%の人口センサスが実施されている。人口センサスは年央人数であり、国家統計局は全国人口数を発表する際に、さまざまな調整を行う。

    (2)調整方法。国家統計局が編集した『 中国統計年鑑 』に公表している人口数は年末の数字である。この数字は人口センサスに基づく戸籍統計の月別の人口増減数を利用して調整した結果である。具体的な調整方法は以下の通りである。

    中国は人口センサスが7月1日に実施するので、人口数が現時点の人口数字、すなわち年央人口である。国家統計局は、まず、センサスの人口数を基準にする。そして、戸籍統計によって7月から12月までの月別人口増加率に基づき、月の人口増減数を計算する。さらに、7月以後の半年の増加人口数( 自然増加人口 )を計算する( 月の増加人口が死亡人数を減らす )。最後に、センサスの年央人口数が7−12月の純増加人口を加え、年末の総人口数を加算する。

 

3.人口センサスについて

    (1)人口センサスの時点

      中国の人口センサスの時点は7月1日である。人口センサスの実施時点は国際的基準がないため、国によって異なる。例えば、台湾の場合は10月1日、アメリカの場合は4月の第1週の月曜日である。国連人口統計司は10年1回人口センサスを実施することを要求しているが、どの年で実施が各国自分で決める。1996年の国連人口世界大会で、2,000年で世界人口センサスを行うことが決定されているが、具体的な実施時間は統一していない。

    (2)人口センサスのオリジナルデータ

      中国では、人口センサスを行って、その結果および関連する主なデータを発表しているが、すべてのデータが発表されていない。特に1982年以前の人口センサスのオリジナルデータが内部資料となっており、発表されていない。しかし、それは国家統計局は利用することができる。

 

4.中国戦前人口・労働の推計

    中国国家統計局人口・就業統計司は仕事を限定しているため、戦後の人口・労働に関する統計の修正や推計は可能にあるがが、戦前の人口・労働の推計は不可能である。

 

5.戦後人口統計データの信頼性

    (1)データの信頼性。

      まず、戸籍統計の信頼性。戦後の人口統計について、歴史、人口政策などの原因によって公安部の人口統計の信頼性は疑わしいと思われる。

      次に、人口センサスの信頼性。中国は、解放以後1982年まで二回目の人口センサスを行った。第一回目は解放以後の1953年で、初めての人民政府の大選挙のため、実施した。その後の1964年、大災害の結果を正しく掌握し、それを踏まえて関連する経済政策を制定するため、もう一回人口センサスを行った。1982年中国は現代人口理論と方法を基づき、本格的な人口センサスを行った。その後、1990年第四回目の人口センサスも実施した。我々の考えとしては、1953年、1964年の人口センサスには少し問題があるが、別の人口統計と比べてみればデータの質が高く、だいたい信頼できると思われる。1982、1990年の人口センサスは全く信頼できると思っている。

    (2)1953年人口センサスの問題

      あ) 行政区劃の問題。1953年人口センサスの際に、熱河、西康、昌都などの省があった。その後、行政区画再編によって以上の省がなくなった。そのため、1953年の行政区画のまま省別の人口数が接続できない。

      い) 少数民族、言語不通、地域が遠いなど原因で、チッベト全域、新彊、内モンゴル等の省の一部が人口センサスを実施しなかった。この省と地域の人口数は推計および概算したものである。

      え) 解放後初めての人口センサスだったので、内容は人口数、性別など一番簡単なものであった。年齢別などの重要な情報はなかった。

    (3)1964年人口センサス。1964年人口センサスは当時の時点で別の統計( 例えば戸籍統計 )と比べて見れば、信頼できるが、今の視点から見るとある程度の問題がある。例えば、大飢饉の直後、地方政府は中央政府からの多くの補助金をもらうため、自分の管理地域の死亡人数を多申告しており、戸籍登録した人口数には問題が大きい。そのため1964年人口センサスを実施した。しかし、人口センサスは戸籍人口の多申告をある程度修正したが、データ不十分、調査方法欠陥および調査員の不足などの原因で、そのミスが全部修正したとはいえない。従って、1964年の人口数を調整することも必要と思う。但し、大飢饉時代の人口数を国務院の決定で決めて発表していたので、国家統計局は政府の一つ部門として、この間の人口数の修正や推計などができない。しかし、民間の研究となったら大丈夫と思う。

 

6.戦後中国人口推計のスタート時点

    (1)戦後人口推計の時点。1953年以後とするのか無難であるう。しかし、1949年の人口数が正しくないと思っているので、1953年の人口センサスに基づいて、1949年の人口数を推計する。

    さらに1953年から1982年までの人口・労働力数には問題もある。特に、1959-1961年間に大飢饉時の人口数、文化大革命時の人口・労働力数の問題が多い。但し、人口センサスの信頼性が高いので、1953年、1964年、1982年の人口センサスの結果に基づき、地域のオリジナルデータを整理して、遡及法で1982年以前の人口・労働力数値の推計および修正ができると思っている。

    1949年から今までの労働力データの接続問題。ある年次の人口センサス中に年齢別のデータがあるので、労働力の定義が決まったら、推計はできると思う。ただし、具体的に何の方法を利用すれば良いでしょうか、検討が必要である。

7.軍 人 数

    (1)軍人数の統計ルート。統計年鑑に発表した人口数中では、軍人の数字が入っている。しがし、従来の方法として、この数字を軍隊内部が自分で集計して統計局に報告する。統計局、民政局、計画生育委員会は軍人の数字を把握していない。

    (2)軍人数。1982年の人口センサスを見れば、軍人数は1982年420万人、1989年以後いずれも毎年320万人である。これは軍縮の結果である。

    (3)軍人統計の分類。軍人は農村の出身者が多いである。しかし、軍人は都市および都市の周辺、郊外に駐在し、都市の集団戸籍を持っている。そのため、軍人が人口統計の際に都市人口として集計されている。但し、農村からの兵士は3年の兵役を満期した以後、農村に戻りれば、農村人口を変わる。ともに、軍人は都市に仕事を見つければ、戸籍では都市戸籍に変わる。

 

8.華僑の人数

    華僑の人数は1953年、1964年のセンサス中に入っていったが、1982年の人口センサスが華僑数を把握してなかった。ただし、華僑の人数が大きくないので、中国全体の人口統計には大きな影響が与えてないと見られる。必要の場合は、1990年以の人口センサスデータを利用して推計することができると思う。

 

ヤミ人口( 黒孩子 )問題

    (1)ヤミ人口( 黒孩子 )の統計。中国は人口抑制のため、1980年から一人っ子政策を始め、子どもの生まれが「 指標化 」となっている。そして婦人が妊娠する前に子どもを生まれる証明書をもらわなければならない。この指標を持たない場合は、生まれた子どもの戸籍を公安部門でとれない。中国、特に都市ではこの人口抑制の政策がとっても強いので、1980年以後人口の出生率が低下している。ただし、一部の人々、特に農村の住民は人口政策に違反して二人、三人子供を生むこと( 中国語で“超生”と呼ばれる )もあった。しかし、政策によってこれらの子どもの戸籍は取れないので、ヤミ人口( 中国語で“黒孩子”と呼ばれる )となっている。公安部の戸籍人口にはヤミ人口は含まれていない。

    正しい人口統計を作成するために、1982年人口センサスを実施した際に、特別措置をとって、ヤミ人口に戸籍を与えた。その結果、人口センサス中にヤミ人口が集計された。

    (2)人口センサス以外の場合のヤミ人口の推計方法。国家統計局は毎年人口センサス、人口変動調査および1%人口センサスのデータを公表している。ともに、戸籍人口の統計が『 中国人口統計年鑑 』中にも公表されている。これらの統計によって、戸籍人口統計数と人口センサスおよび人口変動調査の人口数を比較すれば、ヤミ人口がすぐ分かる。例えば、1994年の戸籍統計人口は11.74億であり、センサス人口が11.94億である。その差は2,000万人がいる。これ2,000万人は、大部分が黒孩子の人数であると考えている。

 

10.農村余剰労働者の推計

    国家統計局は正式な余剰労働者の推計をしてないが、余剰労働者の概念を決めたら、推計はできる。今まで余剰労働者の推計は、1952年の耕地面積と農村労働力数の比率を基準にして推計したものが多い。

 

11.農村人口と都市人口の統計

    農村人口と都市人口について、1992年以前の統計数と1992年以後の統計数が違う。『 中国人口統計年鑑 』を見えば、1993年の年鑑では都市人口が60%以上を上回ったが、1996年の年鑑に発表した新しい数字は27%であった。その違いは都市人口の定義の問題、すなわち都市人口定義の変更である。

    中国では行政改革が何回目も実施したので、都市の定義が何回目も変更されたので、都市の概念や都市人口の数が理解し難い。今使用している都市人口の概念は二つの意味がある。一つは都市に半年以上住んでいるの人数である。この人数の比率は1995年に28.7%である。もう一つは都市戸籍を持って、都市に住んでいる人数である。それの比率は1995年に23%である。両者の差が5.7ポイントである。

    都市人口の問題が都市の行政区劃より生じたことである。1990年以前、都市は行政区画によって決めていた。すなわち、都市人口は市建制( 市レベルの行政区画 )と県城関鎮( 県の中で都市部の人々に対する行政管理区 )の合計人口であった。そのうち、市、県に住んでいる人口は全部都市人口に計算された。但し、その市と県に住んでいる人口の一部は都市戸籍を持たない、または都市と県城関鎮に住んでいる人口の一部が農業をやっているので、農村人口であるが、古い定義によって都市人口に分類された。

    1990年の人口センサスを実施する際に、都市と都市人口の概念が変われた。新しい行政改革によって、都市は地級市、省轄市、県級市( 県レベルの市 )、県管鎮及び街道、鎮等を分けっている。そのため、都市人口は市の下の街道委員会、鎮の下の居民委員会などで管理している人口である。従って、街道委員会および居民委員会に登録、管理している人口は都市人口に集計されている。逆に、都市戸籍を持たない、街道委員会および居民委員会に登録してない人口は、都市に住んでも農村人口に集計している。そのため、都市人口比率が大きく低下していた。

    もう一つの原因では、1984年の人民公社の取り消しである。人民公社を取り消した以後、元の人民公社は鎮と郷に変わった。その変化は都市と農村の人口計算に影響を与えた。すなわち、一部の人民公社は郷となって、一部は鎮となっていった。町には非農業人口一定の水準を達した場合は鎮と呼ばれる。鎮の内では、居民委員会管理に登録および管理している人口が都市人口と呼ばれる。鎮に住んでいる居民委員会が管理していない人口、すなわち非居民委員会に管理している人口は農村人口を呼ばれる。

 

12.郷鎮企業の人口

    1990年代以来、郷鎮企業の労働人数は1.2億となった。郷鎮企業の労働者は非農業の仕事をしている、および都市と県政府所在地の鎮に住んでいるが、都市の戸籍を持たないおよび居民委員会管理に登録していないので、農村人口に計算されている。

    ここで新しい問題が生じた。例えば、郷鎮企業の労働者は実際に都市および鎮に住み、農業の仕事をしないので、本格的な都市人口ではないかと思われる。さらに、郷鎮企業の人口は都市人口に集計していないので、中国の都市人口数は実の都市人口より低いであろう。統計局は今から郷鎮企業の労働者が何処に集計すれば良いか、と考えたい。少なくとも2,000年の人口センサスを実施する際にも考えたい。

 

13.流動人口数の推計

    あ) 1949年からの流動人口数。戸籍統計のデータによれば、1949年から1982年までの流動人口数はまた集計しなくなった。1982年の人口センサスを実施する際に初めて流動人口数を調査している。その内、農村から都市に移動した人数も計算しいる。しかしながら、1949年から1982年までの流動人口のデータがない。ただ、必要の場合は、公安部から関連するデータをもらって、推計ができると思う。

    い) 流動人口数の推計方法。流動人口数は以下の都市人口統計から推計できる。(1)都市常住人口である。常住人口とは本都市に半年以上住んでいる人の人数である。その内、一部の人々は外地域から及び農村からの人口もいる。(2)本都市の人口。すなわち本都市の戸籍を持っている人口数である。(3)本都市の戸籍を持ち、外地域に短期的に住んでいる人口である。常住人口から本都市戸籍を持っている人口数を減らす、本都市から外地域に住んでいる人口数を足す、流動人口数を計算される。[(1−2)+3 ]

    う) 「 盲流 」及び「 民工 」の人口数。流動人口のうち、農村からの人がある。その内の一部は住所不定、仕事を変わりやすい人が「 盲流 」、「 民工 」と呼ばれている。この人口数が公安部の臨時戸籍登録証を参考して計算することができるが、臨時戸籍を持たない方もいるので、確実な数字を計算し難いと思われる。

 

14.今まで人口統計に関する難点

    一つは漏申告の問題である。例えば、「 口袋戸籍 」( ポケット人口 )の人数もいる。ポケット人口とは求職中の人( 仕事を探している新卒大生 )、転職中の人、元の職場から離職して新しい仕事を探している人等の方である。これらの人々は新しい職場がいないので、元職場及び学校の集団戸籍から自分で戸籍を持ち、どこの公安部門に戸籍を申告してないまま流動している。すなわち、この人々は元職場の都市にも今移動中の都市にも戸籍を申告していないので、戸籍統計にはこの「 パケット人口 」が含まれていない。但し、この人数は少ないので、全国の総人口に影響が大きくない。