以上我々は、中国で現在、公表されている全国レベルでの総人口数値の主な統計主体、統計資料、及び統計の内容などについて検討した。その結果我々は、1982年以降は国家統計局発表の人口系列をそのまま使用する。これはセンサス人口及びサンプル調査人口によるものである。一方1981年以前は、2つのセンサス人口をベンチ・マークとして採用し、他の年次は戸籍統計の人口数値を参考に推計することとする。
推計された人口はセンサスに準じて年央のものである。
推計の作業とその最終的結果はいずれ発表することとし、ここでは中間段階の紹介に止める。はじめに推計の概略を紹介し、次にその推計に先立って行われた戸籍統計の補正について述べる。なお本稿の段階では男女合計値のみ計算しているが、いずれ男女別に推計を行う予定である。
1982年以降
表1 の欄fが国家統計局発表の人口系列であり、我々はこれをそのまま採用することする。この期間では1982年と1990年の2つのセンサス( 欄a )があるが、これを表3 の欄dに再掲げられている。統計局ではこれを補正して 表1 の欄fの数値となっている。これは年末人口なのに、年央人口に変更したものが、表3 の欄fである14。
1981年以前
この期間では1953、1964年の2つのセンサスがある。我々はそれをベンチ・マークとして用いる。その他の年次の推計は 表3 で行われる。まずこの2年次について、欄dのセンサス人口と欄eの戸籍人口との比率を算出する。それが欄eである。次に他の年次の比率( リンク比率 )を求める。1949−1952年は1953年と同じと仮定し、1954−1963年と1965−1981年それぞれ直線補間で推計する。このリンク比率を戸籍人口( 欄b )に乗じることによって、推計人口( 欄f )が得られる。
上記の推計に用いられる戸籍統計については、若干の補正が必要である。
1959−63年
この大飢饉時期の人口については王維志氏の研究が参考になる。我々はこれに依拠して戸籍統計を補正する。
ただし、1959-1961年の大飢饉以後、地方政府は救済食糧、補助金、棉布クーパンを獲得するため、人口を過大申告した。王氏によると、この過大申告は1962年で約900万人、1963年で約600万人であった。従って、1964年の人口センサスを基づく、この間の人口数を修正しなければならない。
以上の修正人口数値は下表の通りである。
年 | 戸籍統計 | 自然増減人口 | 過大申告人口 | 修正人口数 |
1958 | 65,994 | − | − | − |
1959 | 67,207 | 677 | − | 66,671 |
1960 | 66,207 | -1,500 | − | 65,171 |
1961 | 65,859 | -663 | − | 54,508 |
1962 | 67,295 | 900 | 66,395 | |
1963 | 69,172 | 600 | 68,572 |
ただし、王氏の修正について、詳しい説明が書いていないので、この修正は正しいかどうか、はっきり分かっていない。そのため、我々は今回の人口推計作業中で、王氏の修正人口データを利用しなくて、戸籍人口統計と人口センサスだけのデータを利用する。
文化大革命期等の混乱期
文化大革命など、政治的・社会的混乱の時期には、発表されている人口数値も疑わしいものとなる16。しかし資料及び研究がほとんどない現状ではいかんともしがたい。今後歴史的資料を発掘するなど努力が必要である。
年末人口から年央人口への転換
戸籍統計による人口は年末現在であり、これを年央人口に転換することが必要である。この作業は 表3 において行われる。すなわち欄aは年末人口であり、2年間の平均として年央人口を求める。それが欄bの数値である。
本稿で取り上げた人口系列の推計は、実在する資料に依拠したものであるが、これとはまったく異なった方法による推計が存在する。それは国連が、1990年センサスをベースとして、1950年以降の時期について5年おきに推計したものである。詳しい手法の紹介は省くが、何等かの形で生命表を推計または仮定し、それをもとに1990年から男女年齢別に遡及推計したものである17。
この結果は 表1 の欄dに掲げられている。1950年についてみても、公安部の戸籍統計( 欄e,f )とあまり違わない。
この方法の問題はおそらく生命表の仮定にあると思われる。なぜなら初期のセンサスでは、すでに述べたように、年齢別人口は調査されておらず、それから生命表を推計することは困難であるからである。国連推計はおそらくかなり無理な仮定をおいて推計したのであろう。我々はこの方法を採らない予定であるが、国連推計よりベターな方法が思い付けば試みる価値はあろう。そして本稿で紹介したようなオーソドックスな推計結果と照合し、最終的にどちらを採用するか決めることとなろう。