U. 統計書と統計資料の吟味

 

ここでは、目下出版されている主な統計書を取り上げ、そこに掲載されている総人口統計の比較検討を行なう。

 

2.1 年鑑等統計集の展望

    @ 国家統計局編『 中国統計年鑑 』中国統計出版社( 1995年版 )

    この年鑑には、「 歴年人口 」と「 当年人口 」という2種類の人口数値が掲載されている。当年人口は、それぞれの年次の人口統計がそのまま引用されるもので連続性はない。これに対して歴年人口とは、各年の人口統計を修正し連続性を持たせたものである。

    歴年人口( 59頁 )は年末の総人口数値である。1949−1981年間は公安部の戸籍統計数値であり、1982−1989年は、1982年の第3回センサスと1990年の第4回センサスの数値に基づき修正したものである。1990年以降の数値は人口変動サンプル調査による修正値である。

    当年人口( 60頁以降 )は、全国レベルと各地区別の数値が掲げられており、当年の人口変動情況サンプル調査に基づく推計値である。ここでの全国総人口には現役軍人数値が含まれているが、地区別の数値には含まれていない。 全国レベルで直接推計した総人口と、地区別人口の合計としての総人口との差は659万人である。この差は中央の直接推計と地域別の人口の合計、及び統計エラーによって生じたものである。

    A 国家統計局人口与就業統計司編『 中国人口統計年鑑 』中国統計出版社 ( 1995年版、1997年版 )

    ここでも歴年人口と当年人口の2種類の人口数値が掲載されている。

    歴年人口( 1995年版 354頁 )は公安部門による戸籍統計が中心である。ただし一連の人口数値と並んで括弧付きの数値が併記されているが、これは1990年の全国人口センサス結果に基づき修正した値である。 1991−1994年の数値はサンプル調査数値であり、先述の『 中国統計年鑑 』の総人口数値と同じ値である。これには現役軍人数値が含まれる。

    当年人口( 1995年版 403頁 )も戸籍統計による人口数値であり、ここでは地区別の人口数値も掲載されている。なお、ここでの総人口には現役軍人数値が含まれていないと思われる。なぜなら、この当年人口1,173,537,070人( 男 605,073,621人、女 568,463,449人)と、上記の歴年人口117,674万人( 男 60,818万人、女 56,856万人 )とでは、約320万人の差があり、この320万人という人数値は同時期の人民解放軍兵士数値に相当するからである。

    当年人口は( 1995年版 403頁 )にも掲載されており、これは人口変動サンプル調査数値である。全国総人口数値は抽出誤差と調査誤差に基づき修正した数値であり、これは『 中国統計年鑑 』掲載の総人口数値と同じ値である。全国の数値は、30の省・直轄市・自治区の人口と現役軍人数( 台湾、香港、マカオの中国人は含まず )である。この人口変動サンプル調査の抽出率は0.107%( 128万人 )である

    B 国家統計局綜合司編『 全国各省、自治区、直轄市歴史統計資料匯編(1949−1989)』中国統計出版社 ( 1990年版 )

    これは全国レベルおよび各省ごとの各種統計を1949年から1989年に至る時系列を掲載した画期的かつ有益な年鑑である。しかし人口統計に関して言えば、全国レベルの総人口についてさえ問題がある。

    まず、1981年以前は公安部による戸籍統計数値であり、1982年は人口センサス数値、それ以後は人口サンプル調査数値である。こうした非連続性は先述の『 中国統計年鑑 』と同様であり、しかも1982年以後の数値が『 中国統計年鑑 』のそれとは一致していないという不可解な事実もある。この年鑑も『 中国統計年鑑 』も共に同じ国家統計局によるものであるにもかかわらず、である。

    C 中華人民共和国公安部編『 中華人民共和国全国分県市人口統計資料 』群衆出版社

    これは公安部が毎年発行しているものであり、目下、日本で一般に入手できるのは1986年以降の数値を載せた版本であるが、実際にはそれ以前の年についても同様の『 資料 』が発行されているようである。

    この『 資料 』に掲載されているのは当年人口のみである。人口数値には現役軍人数値が含まれていないはずであるが、1993年以降はそれを含むと考えられる。これは『 中国人口統計年鑑 』の公安部統計数値( 現役軍人数値を含む )との比較において明らかである。しかし『 資料 』にはこの点についての注記はない。

    D 中国社会科学院人口研究所編『 中国人口年鑑 』経済管理出版社( 1993年版 )

    この『 年鑑 』には歴年人口( 308頁 )のみが掲載されており、統計概念の説明も注記もないが、それは公安部統計と同じと思われる。

    E 国家統計局人口統計司、公安部三局合編『 中華人民共和国人口統計資料匯編 』( 1986年版 )

    この資料は、国家統計局人口統計司と公安部三局( 戸籍登録担当 )との共同で発表した時系列人口統計である。時期は1949年−1985年である。この資料にある人口数値はすべて公安部の戸籍統計数であり、地域別の人口数値は以前のままの省、自治区、直轄市の数字であるので、参考価値が高いと思われる。例えば、1955年の人口数値には、西康省、熱河省等の取り消した省のデータがあり、第1・2回人口センサスのミスを修正する際に利用価値がある。

    表1には、@の『 中国統計年鑑 』の「 歴年人口 」数値と、Aの『 中国人口統計年鑑 』の歴年人口との比較が行われている( 欄e、欄f )。ここで用いられている年鑑の年版が上記の説明で用いたものとは若干異なるが、これはその年版では一部の年次について数値が掲載されていないため、各年の数値が比較できる年版を選んだことによる。しかし上記の説明内容は基本的には変りない。

 

2.2 公安部統計と国家統計局統計との比較検討

さて、以上の人口統計資料を吟味すると、中国における全国レベルの総人口データは、主に以下2つの系統の統計に集約できることがわかる。

第1は公安部担当の統計である。これは戸籍登録に基づく統計で、年末の人口数値である。第2は国家統計局担当の統計である。過去4回の人口センサス、1982年以降の人口変動サンプル調査である。これらセンサス結果を基に、サンプル調査による各年人口の修正が行なわれている。

この国家統計局での公表総人口数値の修正方法については、1996年10月25日、中国国家統計局において張為民、賈処長、李副処長ほかの関係者諸氏に対して、我々はヒアリングを行なった。それによれば、国家統計局では人口センサス結果を基に公安部の人口動態統計を利用して各年の人口数値を算出しており、その結果が『 中国統計年鑑 』掲載の人口数値( 年末人口数値 )である。その算出方法は、まず、センサス結果を基準として、同年7月から12月までの月人口増加率( 公安部の統計 )をもとに、月平均人口増加数値を算出する。次いで、7月以降の月平均[( 増加人口数値 )−( 死亡人口数値 )= ]純増加人口数値( 自然増加人口 )を算出する。最後に、7〜12月の純増加人口数値をセンサス人口数値に加算して、年末総人口数値を算出しているという

要するに、国家統計局は以下のように、実施時期も、調査対象範囲も、公表人口数値の統計時点( 年末人口か、年央人口か )も異なる3系統の人口統計数値を利用していることになる。すなわち、

    @ センサス人口数値……過去4回のみ実施、年央人口、全国人口対象。

    A サンプル人口数値……1982年以降のみ実施、年末人口、一部人口対象。

なお、後述するように、サンプル調査としてはこの他に、「 中間センサス 」としての1%サンプル調査が1987年と1995年に実施されており、その統計時点はそれぞれ7月1日零時時点と10月1日零時時点である。

    B 修正人口数値……1982年以降( それ以前の時期については公安部の戸籍人口統計を引用 )、年末人口、全国人口対象。

以上のように、公安部門系統による戸籍人口統計( これには国家統計局による修正系列もある )、及び国家統計局系統によるサンプル調査、人口センサスの3種類の統計が目下のところ、中国で公表されている全国レベルでの総人口数値であることがわかる。

 

2.3 戸籍統計、人口センサス及び人口調査との比較検討

それではここで、公安部門の戸籍統計と、国家統計局系統のサンプル調査及び人口センサスの内容について、さらに詳細に検討しよう。

    戸籍統計

    戸籍登録制度は1953年第1回人口センサスの基礎の上に設定され、1958年の「 戸籍登記条例 」の公布によって確立されたものである。戸籍登録の内容には主に、常住人口、暫住人口、出生、死亡、転出、転入および変更・修正などがある

    この統計については、その精確度には以下のようなさまざまな疑問がある。計画生育政策との関係で出生や死亡の未申告、偽申告が普遍的であること。また、毎年の上級への報告において下級レベルでの惰性が働き、統計調査の精確さに対する注意があまり払われないままに報告がなされている、という現状があること。過去の歴史における数値の政治的変動( 例えば、文化大革命など )、経済的変動( 例えば、1960年前後の三年経済困難時期の大飢饉による大量の餓死者の発生など )等によって、安定した人口統計調査が一貫しては行なわれてこなかったこと、などの諸点が挙げられる。一方で、従来の戸籍管理は非常に厳しいものであったので、戸籍統計はかなり信頼できるという意見もある。中国公安大学人口管理科学研究所の張慶伍先生によると、戸籍統計は村レベルから直接集計しているので、抽出調査によって推計値であるセンサスの人口数戸籍統計より誤差が小さいと言われる。または、統計局の数値はただ全国総数値があるのみで省以下の行政単位に分解できない。戸籍統計は基層から、村、郷、県、省なで具体的数値があるが、センサスの数値が分解できない。これが長期にわたって両統計が並存してきた主要因である。だが、一般に戸籍統計には上記のような点を含む問題が多く、安易には利用できないというのが大方の理解である。

    サンプル調査

    サンプル調査には、毎年定期的に実施される人口変動情況サンプル調査と、特定項目人口サンプル調査とがあり、後者には出産力調査や障害者サンプル調査などがあるが、ここでは前者について述べる。

    人口変動サンプル調査は、年度人口の変動情況を適時に把握すること、また、国家及び各省・自治区・直轄市の人民政府の国民経済・社会発展計画の策定に資するために、1982年の第3回人口センサス以降に打ち立てられた制度である。同調査は毎年1回実施され、目下のところ、年度人口数値を得るための重要なルートの1つとなっている。

    人口変動サンプル調査の内容は、1982−1988年の時期と1989年以降とでは異なる。1982−1988年の時期は、全国を1つの総体としてサンプル設計をし、標本数値は50万人で、調査結果はただ全国レベルについてのみ代表性を持ち得た。1989年以降は、調査数値を各省・自治区・直轄市に対して比較的代表性を持たせ、各地の人口変動情況を反映させ、全国と省レベルの人口計画の完成情況を検査するために、調査項目を全国総体とすると同時に、30の省レベル単位を第2の総体として標本抽出設計を行なっている。各省の標本の採取は、層を分け、多段階とし、「 整群概率比例 」方法を採用している。調査の標本数値の配分は、大きな省で多くて10万人、小さい省で少なくて5万人で、その他の省の一般的な標本採取量は6〜7万人の間にあり、全国の調査標本量は計180万人である。

    同調査の対象は、常住人口登録に基づくという原則を採り、世帯を単位として調査表の記入を行なう。調査員は各世帯に出向いて聞き取り調査を行なうという方法を採り、「 家庭世帯 」も「 集団世帯 」( 中国語で家庭戸口、集体戸口と呼ばれる )も調査する。調査時点は、前年の1月1日零時と12月31日24時で、時点人口の情況を調査するだけでなく、時期人口の情況、即ち、1年の内の人口変動情況についても調査する。調査登録の時間は1月1日から開始し、前年1年間の人口変動情況を調査する。

    同調査の項目内容には、姓名、世帯主との関係、戸籍登録状況、性別、出生年月、前年の1月1日零時と12月31日24時の時点の人口、初婚年月、出産と生存子女数値、出生、死亡、転入と転出などの、個人に基づく記入13項目と世帯に基づく記入8項目、計21項目がある。調査の重点は、本年度の出生と死亡人口の状況である。

    以上のような調査の他に、サンプル調査としては、各人口センサス実施期間の調査の空白を補充するものとして、1%サンプル調査による中間人口センサスがある。これは1987年と1995年の過去2回、実施されている。それぞれの内容を見てみよう。

    「 1987年1%人口抽様調査 」は、7月1日零時時点の人口について調査された。居民委員会・村民委員会を最終抽出単位とする3段階抽出で行なわれた。1,045の県・市、6,70の郷・鎮・街道、1万2,540の居民委員会・村民委員会が標本として採取され、実際には、249万戸、1,071万人を調査した。採取率は0.999%である。これによって算出された総人口数値は、10億67万9,308人( 軍人除く )となっている

    「 1995年1%人口抽様調査 」は、10月1日零時時点の人口についての調査で、10日間で登録を終了させた。全国30省、1,558の県レベルの行政単位、47,471の調査小区、現役軍人を含む12,565,584人( 全国人口の1.04% )を調査した。これによって算出された総人口数値は、12億778万人である

    人口センサス

    中華人民共和国成立以降、全国範囲での人口センサスは1953年、1964年、1982年、1990年の計4回実施されている。

    それぞれのセンサス結果は、以下の通りである 。

        第1回:1953年7月1日…… 5億9434万6737人。

        第2回:1964年7月1日…… 6億9794万3414人。

        第3回:1982年7月1日…… 10億 817万5288人。

        第4回:1990年7月1日…… 11億3368万2501人。

    以上は、国務院人口普査弁公室編『 中国第四次人口普査的主要数値拠 』( 中国統計出版社、1991年 )によるが、他の一部の資料( 例えば、『 中国統計年鑑1981 』、『 中国人口年鑑1985 』など )では、特に前2回の人口数値について異なった数値が挙げられていたりする。『 中国統計年鑑1997 』71頁、『 中国人口統計年鑑1996 』163頁によれば、人口センサスの数字以下の通りである。

        第1回:1953年7月1日…… 5億8260万人。

        第2回:1964年7月1日…… 6億9122万人。

        第3回:1982年7月1日…… 10億 391万人。

        第4回:1990年7月1日…… 11億3051万人。

    以上の人口センサスの結果は二つの数字があったが、その理由は今のところ不明である。だが、我々の推計は中国国家統計局編集した『 中国統計年鑑 』各年版、特に1997年版を基準にして作業する。

    次に、調査項目であるが、回数値を重ねるにしたがって、次第にその調査項目数値を増加させている。具体的には、以下の通りである。

        ◆第1回( 6項目 ):住所、氏名、世帯主との続柄、性別、年齢、民族。

        ◆第2回( 9項目 ):( 前回の項目に加え、)出身階級、職業、教育程度。

        ◆第3回( 19項目 ):

          ・世帯員に関する事項(13):氏名、世帯主との続柄、性別、年齢・生年月日、民族、常住人口の戸籍登録状況、教育程度、産業、職業、不就業状況、配偶関係、出産子女総数値と生存子女総数値、81年出生子女の出生順位。

          ・世帯に関する事項(6):戸別(家庭・集団)、住所、世帯員の数値、1981年1年鑑の世帯内の出生児数値、1981年1年間の世帯内の死亡者数値、常住戸籍を離れて1年以上経つ者の有無( 氏名と性別 )

        ◆第4回( 21項目 ):( 前回の項目に加え、)5年前の居住地とその都市・農村別型、移動者についての移動理由。

    さらに、事後抽出検査結果については、次のようになっている。

        第1回:重複調査の率0.139%、調査漏れの率0.255%、純誤差率 −0.116% 。

        第2回:重複調査の率0.038%、調査漏れの率0.039%、純誤差率 −0.0014% 。

        第3回:重複調査の率0.071%、調査漏れの率0.056%、純誤差率 −0.015% 。

        第4回:重複調査の率0.01%、調査漏れの率0.07%、純誤差率 −0.06% 。