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所長挨拶

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 経済研究所は1940年4月1日に東京商科大学東亜経済研究所として創設され、1949年に一橋大学経済研究所に改組された伝統ある組織で、経済社会に関する傑出したデータベース群の構築や、統計データと直結した高度な理論・実証分析及び政策研究面において、多くの優れた研究成果を挙げ、内外の研究者や研究者コミュニティ、大学・研究機関から高い評価を受けてきました。中でも1960~80年代に刊行された『長期経済統計』(全14巻)、それを継承する形で1998年以降刊行を進めている『アジア長期経済統計』(全12巻予定)など、経済学会全体の知的財産とも言うべき長期統計の整備は本研究所の重要な業績と言えます。
 
 研究機能を強化するため、2015年には研究体制を「経済・統計理論研究部門」「経済計測研究部門」「比較経済・世界経済研究部門」「経済制度・経済政策研究部門」「新学術領域研究部門」という5部門体制に再編成しました。現在は、この5部門に「社会科学統計情報研究センター」「経済制度研究センター」「世代間問題研究機構」「経済社会リスク研究機構」を加えた5部門・4附属研究施設体制で研究を推進しています。
 
 本研究所は、2010年度に文部科学省の共同利用・共同研究拠点制度の下で「日本および世界経済の高度実証分析」の拠点として認定され、政府統計のミクロデータの整備・提供をはじめとして、さまざまな統計を国内外の研究者に利用可能にするとともに、公募によって共同研究を募り、本研究所のデータベースを用いた共同研究を推進しています。最近では、国外の研究者による共同研究への参加が飛躍的に高まっており、国際的な共同研究活動のハブとしての本研究所の役割が高まっています。その結果、2018年度の中間評価において、人文・社会学系の共同利用・共同研究拠点で唯一、最も高いS評価を受けました。2018年度には日本学術振興会の「人文学・社会科学データインフラストラクチャー構築プログラム」にも採択され、政府統計データのデータベース化、調査票情報等メタデータの整備、政府統計個票の集計データや加工統計(オーダーメイド集計、歴史統計、産業構造データベース及び国際比較データベース等)の整理、及びこれらデータの英語化や国内外への発信、個票データの利用可能性の向上、等を通じて、国内外研究者コミュニティ-による政府統計データやその集計・加工データの利活用を促進する総合的なシステムの構築を行っています。
 
 本研究所は長年、科学研究費の高い採択率を誇っています。現在継続中の大型科学研究費プロジェクトは、「サービス産業の生産性:決定要因と向上策」(基盤研究 (S))があります。また、国際共同研究加速基金(帰国発展研究)として「新たな視点からの産業組織分析:「ヒト」に光をあてる」と国際共同研究加速基金(国際共同研究強化)「雇用仲介業の研究」も採択され、活発な共同研究活動が行われています。
 
 こうした活発な研究活動に対する強固なサポート体制を整備している点も、本研究所の大きな特徴です。具体的には、①研究をサポートする秘書室、②研究成果の刊行をサポートする学術出版室、③データの入力整備、分析補助やインターネットのセキュリティなどに対応する大規模データ分析支援室、④図書機能を担う資料室・社会科学統計情報研究センター資料室、等を整備しています。そして、科学研究費の申請業務に対するサポートや予算執行、会計処理を事務室が厳格に管理しています。こうしたサポート体制は、本研究所の研究推進機能の基盤となっています。研究の活性化のため、人事面でもテニュア・トラック制を導入し、若手研究者を積極的に採用しています。また、准教授ポストを使用し、若手研究者3~4名を特任准教授として各々2~3か月の期間採用し、本研究所において共同研究を行っています。
 
 一橋大学では「第3期中期目標・中期計画」(2016~21年度)を推進しており、そこでは研究水準及び研究成果に関する目標として、①国際社会の持続的発展に資するため、世界最高水準の研究成果を一層生み出す、②学術情報基盤を整備するとともに、研究成果の国内外への迅速な発信を行う、③世界及び日本が直面する課題に対して、社会科学高等研究院(Hitotsubashi Institute for Advanced Study: 略称HIAS)を中核として重点領域研究プロジェクトを推進する―の3つを掲げています。本研究所は、一橋大学によるこの目標追求においても中心的な役割を担っています。2014年に学長直轄の組織として設立されたHIASでは、「グローバル経済における経済政策」「マクロ計量モデルの開発とマクロ経済の諸問題への応用」「途上国における持続的貧困削減に向けた制度と政策」「規範・制度・メカニズムデザイン―「社会科学の総合」の理論と実証―」の4つを重点領域研究プロジェクトとして推進していますが、HIAS設立当初から「グローバル経済における経済政策」を除く3つのプロジェクトのリーダーを本研究所の教員が務めています。これらの重点領域研究プロジェクトでは毎年8月にHitotsubashi Summer Instituteとして海外の著名な研究者を招聘してワークショップを開催しており、それ以外にも本研究所では多くの国際会議やシンポジウムを開催しています。
 
 本研究所のより一層の発展のために、今後は以下の活動に力を入れる所存です。第一に、政府統計や歴史統計に、資産市場の高頻度データやPOSデータなどのビッグデータを加えた幅広い統計データの蓄積、公開、利用を促進します。第二に、そうしたデータに基づいて、より多くの研究成果を生み出し、査読付き学術誌への掲載を目指します。第三に、経済社会に有用な情報提供や制度設計・政策提言も行います。最近では、政策評価や政策立案に際して、実際の統計データに基づく検討を重視する、“evidence-based policy making”の必要性が強く指摘されるようになっています。本研究所は伝統的に実証分析に強みがあり、この分野での貢献が社会的にも期待されています。本研究所は近年、政府・日銀や政府系及び民間の研究機関との研究連携・人事交流を精力的に進めています。具体的には、本研究所はこれまでに経済産業研究所、国立社会保障・人口問題研究所、財務省財務総合政策研究所、内閣府経済社会総合研究所、ニッセイ基礎研究所、日本銀行金融研究所、日本経済研究センター、日本貿易振興機構アジア経済研究所と研究交流協定を結んでいます。こうした取り組みを拡充し、政策ニーズを反映した研究の推進、研究の政策提言力の強化、さらには高度な統計分析能力を備えた人材育成を進めます。本研究所の研究者と事務・研究補助職員は、これらの活動に一丸となって取り組み、社会に貢献することに努めてまいります。
 
2019年4月1日
 
 
一橋大学経済研究所所長
渡部敏明