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所長挨拶

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 一橋大学経済研究所のウェブサイトにようこそ。所長の黒崎卓(くろさきたかし)です。私の専門分野は開発経済学で、1987年に行ったパキスタンでの中小企業調査を皮切りに、インドやバングラデシュにもフィールドを広げ、南アジア地域における長期的な経済成長・貧困削減の過程と、そこに政策や市場が果たす役割に注目した研究を続けてきました。1997年に経済研究所に赴任して以来、本研究所に蓄積された研究のノウハウやネットワーク、図書・統計資料などの恩恵を大いに受けてきただけに、このたび所長に就任し、この伝統をさらに発展させなくてはいけないとの思いを新たにしています。

 
 経済研究所は1940年4月1日に東京商科大学東亜経済研究所として創設され、1949年に一橋大学経済研究所に改組された伝統ある組織です。「日本及び世界の経済の総合研究」が設置目的でした。とりわけ、経済社会に関するデータベースの構築や、統計データと直結した高度な理論・実証分析および政策研究面において、多くの優れた研究成果をあげてきました。中でも1960~80年代に刊行された日本の『長期経済統計』(全14巻)と、それを継承する形で1998年以降刊行を進めている『アジア長期経済統計』(全12巻予定)は、経済学界全体の知的財産とも言うべき本研究所の重要な業績と見なされています。
 2010年度には、本研究所が文部科学省の共同利用・共同研究拠点制度の下、「日本および世界経済の高度実証分析」の拠点に認定されました。この拠点として、政府統計のミクロデータの整備・提供をはじめとして、さまざまな統計を国内外の研究者に利用可能にするとともに、公募によって共同研究を募り、本研究所のデータベースを用いた共同研究を推進しています。他にも日本学術振興会の「人文学・社会科学データインフラストラクチャー構築プログラム」の採択や、多数の科学研究費獲得などを通じて、本研究所をベースに、国際的な共同研究活動が活発に行われるようになりました。
 これらから得られた研究成果はまず、研究所スタッフによる多数の英文査読付きジャーナル論文に現われています。加えて英文の研究書や和文の論文・研究書も次々と公刊されています。さらには、経済研究所独自の研究成果発表の媒体として、英文研究叢書、和文研究叢書、日本語での数少ない査読付きジャーナルである『経済研究』誌の3つを有しており、これらは皆、学界において一定の評価を得ています。一橋大学の中期目標・中期計画においては、国際社会の持続的発展に資するために世界最高水準の研究成果を一層生み出すこと、学術情報基盤を整備するとともに、研究成果の国内外への迅速な発信を行うことがうたわれていますが、本研究所は本学におけるその中心的役割を担っていると自負しております。
 
 本研究所は今後、以下の活動に力を入れる所存です。第1に、政府統計や歴史統計に、資産市場の高頻度データやPOSデータなどのビッグデータを加えて、幅広い統計データの蓄積・公開・利用を促進します。これは、研究のために公共財を提供してきた本研究所の伝統をさらに強化するということです。第2に、そうしたデータに基づいて、より多くの研究成果を生み出し、英文の査読付きジャーナル掲載論文数を増加させるとともに、経済社会に有用な情報提供や制度設計・政策提言も行います。最後の点は、近年重視されている"evidence-based policy making"(EBPM)への貢献とも言えましょう。第3に、政府・日銀や政府系および民間の研究機関との研究連携・人事交流や、他大学の附置研究所等との連携をこれまで以上に深めたいと考えています。本研究所の今後の活動に、皆さまのご支援、ご指導をどうぞよろしくお願いいたします。
 
 
2021年4月1日
 
 
一橋大学経済研究所所長
黒崎 卓