プロジェクトの内容

HOMEプロジェクトの内容申請時における準備状況

申請時における準備状況

 本研究の研究代表者・研究分担者のうち清水谷を除く全員が特定領域研究「世代間利害調整」(平成12年度〜平成16年度)に参加し、世代間問題について既にかなりの研究成果を得ている(ちなみに事後評価はA+であった)。本研究は基本的に上記の特定領域研究を継承するものである。特別推進研究では、上記研究のうち国際的にすでに高い評価を得ていると思われる個別分野に焦点をあて、研究のいっそうの発展を目指す

研究代表者の高山は上記特定領域研究の領域代表者として研究全体を5年間にわたってリードし、特に年金問題の研究を精力的に推進してきた。その研究成果(バランスシート・アプローチの提案、incentive-compatibilityへの着目など)は内外で高い評価をすでに獲得している。人口減少という新時代が到来する中で高齢化の最先進国日本からどのような新研究情報が発信されるのか。そのような内外の関心に応える準備はすでに整っている

なお人口減少社会の経済理論的分析は研究分担者の青木玲子(平成18年7月1日より一橋大学経済研究所教授に就任)が担当する。青木は上記の特定領域研究に研究分担者として積極的に参加し、経済理論家として少なからぬ貢献をしてきた

研究分担者の鈴村は特定領域研究「地球温暖化問題を巡る世代間衡平性と負担原則」(平成12〜16年度、研究代表者:鈴村興太郎)における研究活動を通じて、本研究の申請課題と密接に関連する研究を遂行し、いくつかの重要な基礎的成果をあげた。第1に、地球温暖化問題のように懸隔した世代間の環境的外部性の問題では哲学者D.パーフィットが指摘した人格の同一性問題が発生し、世代間衡平性を考察する枠組みを伝統的な厚生経済学の功利主義に求めることが不可能であることを確認した。第2に、クープマンス=ダイヤモンドの不可能性定理を深く検討し、可能性と不可能性を分かつ分水嶺の所在について明確な理論的予測を得た。第3に、重複世代モデルにおける衡平性の3つの概念を定式化し、効率性と衡平性のジレンマを考察する基礎的枠組みを開発した。また上記の特定領域研究には法哲学・政治哲学・経済哲学の研究者も参加し、定例研究会や国際コンファレンスで共同作業の経験を重ねているので、今回の研究に取り組むためのアカデミック・ネットワークも整っている。さらに鈴村は一橋大学における21世紀COEプログラム「現代経済システムの規範的評価と社会的選択」(平成15年度〜平成19年度)の拠点リーダーとして研究教育拠点形成計画を着実に推進中であり、その中で国内外の厚生経済学と社会選択理論の研究者との共同研究ネットワークを形成した

研究分担者の玄田は、1990年代末の日本において事業所内部における中高年世代社員の雇用を維持する代償として若年の採用を企業が抑制した事実があることを、厚生労働省「雇用動向調査」を再集計して実証した。その影響は若年世代の雇用に対する中高年世代の「雇用の置換効果」として知られるところとなっている。また若年無業(ニート)研究についても玄田が学会をリードしてきた

研究分担者の清水谷は平成17年8月初旬にHRSの実施主体であるミシガン大学を訪問し、R.Willis教授(principal investigator)以下、10数名のHRSスタッフと調査方法・内容につき2日にわたって意見交換した。同時にSHAREのリーダーであるマンハイム大学A.Borsch-Supan教授などからも意見を聴取した。そしてパネル調査を日本で実施するさいに必要となる知的支援を存分に受ける約束を彼らから取りつけた

なお清水谷は経済産業省から2,500万円の資金を得て、本格的パネル調査のための予備調査(サンプル数は2,000世帯)を平成17年10月から実施している。その予備調査を踏まえた研究成果は産業構造審議会報告に取り入れられるなど実際の政策面でも有効に利用される予定である

さらにHRSなどの高齢者パネルで分析したこれまでの膨大な研究成果(HRSだけで千本程度)、特に高齢者の労働供給・引退行動・再就職について検証した実証分析に関する文献を現在、清水谷は精読し、日本への応用可能性を検討している

研究分担者の小椋はこれまでの研究の中で、医療費に関するマイクロシミュレーションモデルを利用し、「従来の老人保健制度の下では高齢化により増加する医療費の負担が職域保険の被保険者と政府に集中する」ことを示し、「地域保険の抜本的な改革なしには公的医療保険制度の安定は図れない」ことを示した。さらに医療費負担の帰着を分析し、「労働所得に対する負担の集中を避け受益と負担のバランスを図るためには、一次的な公的医療保険を消費税によって賄うこと、高齢者の自己負担率を引き上げること等が現実的な方法である」と主張してきた。なお小椋は法政大学エイジング総合研究所における研究活動を通じて、大量の医療保険パネルデータを用い、医療費が時間とともにどのように変化するかについて精力的に分析するとともに、M.J. EichnerやD. Wiseのノンパラメトリックな手法をめぐるさまざまな技術的な問題をクリアーしてきた

全体として本研究の準備は十分な具体性をもって整っている

このページの先頭へ戻る