構想と目的

研究代表 黒崎 卓 (一橋大学経済研究所)

基本構想

 現在開発途上国と呼ばれる地域には、永年にわたって開発のための努力をしてきたにもかかわらず、依然として深刻な絶対的貧困の問題が残っています。これら絶対的貧困の諸問題の中には、戦前日本が抱えたのと共通のものも多く見られます。

 これを背景にこの研究は、現在、地球規模での喫緊の課題となっている途上国における貧困削減・経済開発のために有益な、経済発展論・開発戦略の長期的な方向性を示すことを目的とします。開発経済学と途上国経済論に関する新たな「知」の創生が目的と言い換えることもできるでしょう。

 より具体的に、本プロジェクトでは、現アジア・アフリカ両地域と高度経済成長以前の日本を中心に、制度や組織に注目した独自のデータ収集を進め、制度採択の決定要因、その影響、政策の効果などについて実証的に分析します。そしてこのような実証分析を複数時点・複数地域に関して統一的に行うことにより、新しい比較経済発展論の構築を目指します。

分析の柱

 分析の第一の柱は、開発のミクロ計量経済学的分析として、家計、企業、市場価格・取引量、農家の圃場などを観察単位としたマイクロデータを、ミクロ経済学理論の裏づけのある仮説に基づいて、計量経済学的に分析するアプローチです。経済発展の初期段階でしばしば見受けられる、一見市場取引とは異質に見える契約や取り決めの背後にあるミクロ経済学の論理構造を明らかにしたいと考えています。

 分析の第二の柱は、経済発展の比較経済史的分析、すなわち歴史データを駆使し、戦前日本および関連地域等における経済発展の過程を、総合的・比較史的に実証分析する作業です。これにより、歴史上の制度や組織、天災あるいは政権交代などがもたらした経済的帰結を、定量的に明らかにしたいと考えています。分析においては、アジア長期経済統計データなどマクロデータと並んで、制度と生産組織に関する詳細な史資料の発掘・データベース化と分析を進め、長期的な経済発展の各段階における制度・組織の特質とその経済的役割に注目します。

そして第三の柱は、現代途上国のミクロ計量分析と、比較経済史的分析との融合です。そのために、類似の実証分析を第一・第二の柱両方にまたがって、すなわち複数時点・複数地域に関して統一的な実証分析を行うこと、それらを理解するための理論モデルを構築すること、そして、その理論モデルに基づくシミュレーション分析を組み合わせることを考えています。

プロジェクト名について

途上国における貧困削減と制度・市場・政策:比較経済発展論の試み」というプロジェクトのタイトルには、このような我々の意欲を込めました。英語のタイトル(Poverty Reduction, Institutions, Markets, and Policies in Developing Countries: Toward a Theory of Comparative Economic Development)を縮めて、PRIMCED(プリムセッド)と略称したいと思います。

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