HOME » 刊行物 » 経済研究

論文要旨

Vol. 73, No. 4, pp. 343-357 (2022)

『将来予測とうつ・不安・幸福度との関係 --コロナ禍におけるパネルデータ形式のアンケート調査による検証--』
関沢 洋一 (独立行政法人経済産業研究所)

将来予測が感情の影響を受ける,あるいはその反対に,感情が将来予測の影響を受けることを指摘する研究が心理学を中心に多く生まれている.本稿では,2020年から2021年にかけての新型コロナウイルスの蔓延時において,3か月後の世帯収入の増減の予測,東京五輪が2021年夏に開催されるか否かの予測,2021年9月に新型コロナウイルスが終息する確率の予測がうつ・不安・幸福度と関係を有するか否かを検証した.独立行政法人経済産業研究所で行われた5回(2020年10月,2021年1月,4月,7月,10月)にわたるパネルデータ形式のインターネットアンケート調査の結果が分析に用いられた.固定効果モデルによる重回帰分析を主たる分析手法とした.分析の結果によれば,うつや不安の傾向が強い人々や幸福度の低い人々は3か月後の世帯収入が減ると予測しやすかった.一方,これらの指標と東京五輪の開催予測の間には有意な関係が見られなかった.新型コロナウイルスの終息確率については,幸福度が高いほど終息確率を高く見積もる傾向が見られたが,不安については有意な関係は見られず,うつについては10%有意水準でうつの程度が大きいほど新型コロナウイルスの終息確率の予測値が高くなる傾向が見られた.