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論文要旨

Vol. 71, No. 1, pp. 102-122 (2020)

『生活水準の概念と計測の再検討』
北村 行伸 (一橋大学経済研究所)

生活水準という概念は経済学ではよく使われる概念であるが,正式の定義はない.経済史では産業革命期に労働者の生活水準がどう変化したのか,その背景のメカニズムはなにかということが議論されてきた.現代経済学の分野ではアマルティア・センが生活水準計測においてケイパビリティ・アプローチを提唱して以来,財・サービスの購入や保有によってではなく,その財・サービスを機能させるケイパビリティによって生活水準を計測すべきであるという議論が1980年代から主張され,多くの研究者の間で受け入れられてきた.しかし,センは,機能やケイパビリティをどうとらえ,どう計測し,どう比較していけばいいのかという具体策は提案してこなかった.本稿では,情報通信業を軸に起こっている産業革命の下で,ケイパビリティ・アプローチをどのように実現化していけばいいのかを検討した.今後の生活水準に関する統計整備の過程では,個人の健康や医療,身体,脳神経,ゲノムなどの情報と社会経済統計を個人レベルの生涯に及ぶパネルデータとして名寄せした生活水準データベースが構築されることで初めて,本格的にケイパビリティ・アプローチに基づく生活水準の計測が可能になるのではないかという議論をした.