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論文要旨

Vol. 71, No. 1, pp. 10-34 (2020)

『職業訓練の効果測定における脱落の影響』
坂本 和康 (群馬大学社会情報学部)

本研究では,「慶應義塾家計パネル調査(2004~2012年)」を用いて,職業訓練が賃金に与える効果に対して,サンプル脱落によるバイアスの影響を分析する.
 これまでの先行研究では,職業訓練の賃金への影響を測定する場合,内生性の問題を中心に,如何にして職業訓練の効果以外のものを統制し,純粋な平均処置効果を測定するかが重要視されてきた.本研究ではその点も考慮しつつ,サンプル脱落がもたらす影響についても検証した.
 職業訓練受講の内生性を考慮したInverse Probability Weighting Regression Adjustment推定(IPWRA, Wooldridge2007; 2010)と,加えて,脱落を考慮した,Inverse Probability Weightを用いて,内生性バイアスと脱落バイアスを推定すると,双方とも過大推計を招いていることが確認された.また両バイアスを比較すると,受講直後は前者の方が大きいが,徐々に後者の方が大きくなった.
 最後に,Lee Bounds推定(Lee 2009)とIPWRA推定とを比較すると,総じて前者の方が大きな値となった.この理由として,Lee Bunds推定における仮定(処置の無作為な割り付け)が満たされないことによる過大推定が考えられる.