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論文要旨

Vol. 70, No. 4, pp. 289-311 (2019)

『石油価格変動が為替レートとマクロ変数に与える影響 --A Mult-Country Analysis--』
祝迫 得夫 (一橋大学経済研究所), 中田 勇人 (明星大学経済学部)

本論文では,石油価格変動の背後にある経済的なショックが,各国の為替レートとマクロ変数に与える影響の相対的な重要性について,単一の構造ベクトル自己回帰(VAR)モデルのフレームワークを用いて数量的な評価を試みる.石油価格の変化が,変動相場制を採用しているエネルギー輸入国と輸出国の通貨価値に与える影響を分析するため,オーストラリア,カナダ,日本,ノルウェー,そしてイギリスを分析対象国とした.また,以下の4種類の構造ショックが存在することを前提としたVARシステムの識別によって,それぞれのショックが各国の為替レートに与える影響について考察した:(ⅰ)石油供給ショック,(ⅱ)世界的需要ショック,(ⅲ)需給と関連のない原油価格の変動,(ⅳ)他の構造ショックと関連のない純粋な為替レート変動.その結果,構造ショックに対する反応の違いによって各国の為替レート間の相関構造をかなりの程度説明することができる一方,為替レートのボラティリティの源泉としては,純粋な為替レート・ショックが最も重要性が高いことがわかった.また,オーストラリアと日本に関しては,マクロ変数の変動を説明する上で構造ショックが果たす役割についても考察した.世界的需要ショックならびに需給と関係のない石油価格変動が両国のGDPと輸出成長に対して強い影響を持つ一方で,純粋な為替レート・ショックは日本のマクロ経済変数を説明する上で,重要度が低いことが分かった.