将来インフレ予測のサーベイ調査結果には多くの誤差が含まれていると考えられている.近年,インフレ予測に関して,(1)点予測および(2)主観的確率分布の二つの設問を用意するなど,質問手法による回答の違いに関する分析が行われているが,望ましい調査方法に関する統一した見解は得られていない.本稿は,一般消費者に対して二種類の質問方法によるインフレ予測の調査を行うと同時に,情報制約下の合理的期待形成を前提とした経済実験を行うことで,回答に含まれる誤差等,調査手法の違いが回答に与える影響を分析した.一般消費者のうち両設問に対する回答が整合的なのは全体の5割程度であり,点予測の答えは,分布から得られた平均値や中央値に比べて,水準・分散,及び含まれる回答誤差ともに大きかった.また,両者が整合的な回答の平均値は実現値に近くなり,分散も小さくなった.さらに,経済実験により将来インフレ予測に有用な情報を与えたグループの,両質問間での整合性は上昇した.二つの設問への回答は,いずれも理論と整合的な動きを示しており,Clements (2010)の指摘するような調整の遅れは観察されなかった.インフレ予測における分布の質問が特に有用であること,点予測と両方質問することで整合性チェックが可能であることから,二つの調査いずれも重要であるという結論を得た.