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論文要旨

Vol. 70, No. 1, pp. 54-72 (2019)

『ソビエト期ロシアにおける地域間人口再配置 --再論--』
雲 和広 (一橋大学経済研究所)

ソ連時代当時における地域間人口移動を巡る言説では,その初期においては政府による管理が有効であり,例えば長距離を経た人口再配置も実現が容易であったものの,後期には国家投資による誘因の有効性が限定的なものとなったという指摘があった.それは確かにあり得る事のように受け取られ得るが,しかしながら現象と矛盾するものであったことも否めない.なるほど極北地域や極東地域等,ヨーロッパロシア部から遙かに遠い地域への人口流入が継続的に見られ距離の効果は小さいものであった可能性を示唆していたものの,それがソ連末期まで続いたことは同時に,政府による人口移動管理の可能性が潰えていなかった可能性をも見せていた. 本稿は新たに利用可能になったデータを用いて,ソ連時代における政府の人口移動管理の有効性を確認することが出来た.これは既存の研究と異なる発見であると言えるが,先行研究は分析単位が広大な地域であったり都市であったりすることによって,様々な要因の効果を正確に把握出来ていなかった可能性のあることが示唆される.本稿の分析は,これまでソ連時代に関し得られてきた結果について,検証を進めていく事の必要性を示すものであろう.