本研究の目的は,両大戦間期日本における農家の酒と煙草の消費支出について,これらの財が持つ社交的性質の違いに着目し,支出パターンが家計の社交性の高低によって異なるのかを分析することにある.戦前期日本における農家経済調査のパネルデータを用いてHausman-Taylor法に基づく推定をおこなった結果,社交性の高い農家において,酒は家計における個人用途支出が抑制され,煙草への支出は農家の社交性からの影響を受けていなかったことが明らかとなった.酒と煙草は共に習慣性の強い財ではあるが,この時期の日本農村部では,酒は社交のツールとしての性質が強く,それゆえ農家の持つ社交性の高低が酒の支出パターンに影響を与えていたのに対して,個人で消費する性質が強い煙草は農家の社交性との関連は大きくなかったと考えられる.酒のような習慣性だけでなく社交的性質も強い財への支出を分析する際には,共同体との関係性も考慮することが重要であるといえる.