本稿は,20世紀前半の計量経済学に関するサーベイを提供する.既存の研究を参照しながら,20世紀初頭に静学的経済理論を批判するために初歩的な計量分析を用いたヘンリー・ムア,より体系的に数理統計学を導入し,組織面でも大きな貢献をしたラグナー・フリッシュ,1930年代に大規模なマクロ計量モデルを構築したヤン・ティンバーゲン,計量経済学に明確に確率論を導入したトリグベ・ハーベルモやコウルズ委員会の研究者について叙述する.くわえて,計量書誌学的手法を用いて,20世紀後半において重要な計量経済学者を析出する.これらを通じて,経済学における理論と実証のあいだの緊張関係が,「モデル」という発想の普及によって無害化されたということを指摘するとともに,今後の展望としてコウルズ委員会以降の計量経済学に関する研究の方向性を提案する.