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論文要旨

Vol. 66, No. 4, pp. 355-376 (2015)

『原油価格,為替レートショックと日本経済』
祝迫 得夫 (一橋大学経済研究所), 中田 勇人 (明星大学経済学部)

本論文では構造VARの分析枠組みを用いて,外生的なショックとして (i) 原油のサプライショック,(ii)需給に関係のない原油価格の変動,(iii)世界景気(需要ショック),(iv) 他の要因では説明されない為替レートに固有なショックという4つの要因を想定し,これらのショックが日本経済全体および産業別・規模別の産出量と企業収益に与える影響について検討を行う.分析の結果,原油生産の外生的変動は産出量にほとんど明確な影響を与えないこと,逆に世界的な需要ショックは明らかなプラスの影響を与えることが確認された.為替レート・ショック(円高)の産出量への影響は,幾つかの産業では明確なマイナスの効果を持っているが,全体としてはさほど明確なものではなく,また製造業/非製造業・サービスの区別なく,海外との競争に直面していると思われる大企業にはマイナスの影響を与えている.これに対し,企業収益を被説明変数とした場合には,円高の製造業に与える影響はずっと明確になり,また企業規模を問わず製造業に関しては明確なマイナスの影響を与えている.政策的インプリケーションという観点から本論文の分析結果で重要なのは,為替レートとそのものの変動と,構造VARの推計結果から計算された為替レート・ショックの違いである.例えば,プラザ合意後の1985年後半から86年にかけての急激な円高の進行は,1980年代前半の円安ショックの修正と,同時期の原油価格の大幅下落の影響が大きいものと考えられる.また,2008年秋のリーマン・ショックに端を発した世界金融・経済危機時の円高に関しては,世界的な実物経済活動の低下と,需給要因では説明のつかない原油価格の低下が大きな役割を果たしていた.その一方で,2010年から2012年中盤にかけて,世界経済が復調傾向を示し始めたにもかかわらず引き続き円高が持続したことについては,他の構造ショックの動きで説明することは難しい.