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論文要旨

Vol. 66, No. 1, pp. 19-34 (2015)

『非正社員の働き方と正社員への転換 —『正社員以外の経験と転職に関するアンケート調査』より—』
神林 龍 (一橋大学経済研究所)

本稿では, 独自に行った『正社員以外の経験と転職に関するアンケート調査』をもとに, 非正社員として就業していた時の働き方, 特に仕事の内容や勤務場所が変化したかどうかと, その後の正社員への転職との関係を分析する. その結果, 第一に, 非正規就業者のおよそ半数は職務か勤務地の変更を経験しており, 非正社員といえども常に単一の業務に固定されているというわけではないことがわかった. 第二に, 非正規就業時に多様な経験を積んだ被用者は正社員への希求度合いが強く, 転職活動を活発にしている傾向が確認された. しかし, 第三に, 非正規就業時の多様な経験は決して実際の正社員への転職と結びついているわけではなく, 転職成功比率はむしろ低い傾向が見られた. こうした傾向から, 非正社員と正社員のキャリアの連続性を示唆するようなフレキシブルな就業経験は, 転職市場ではあまり評価されていない可能性が指摘できる. 逆に, 単一の職務・勤務地のみでの非正規就業の経験は, 正社員への転換という点では阻害要因とはなっていないのかもしれないものの, 正社員への転職後その経験を生かせたと考える被用者は多くない. 非正社員と正社員の二極化のメカニズムを探求し, 政策的な対処を考えるのであれば, 両者の職務設計のあり方と労働市場における職務経験の評価のあり方の関係をより深く考察することが必要だろう.