HOME » 刊行物 » 経済研究

論文要旨

Vol. 63, No. 4, pp. 318-332 (2012)

『子から親への世代間移転についての研究動向』
中村 さやか (名古屋大学大学院経済学研究科), 丸山 士行 (ニュー・サウス・ウェールズ大学)

世代間移転に関する従来の経済学研究は親から子への移転に焦点を当ててきたが,人口の高齢化と共に子からの支援が高齢者にとって重要な役割を果たすようになっている.また,親から子への移転のメカニズムを解明する上でも,親子の相互依存の関係を理解する必要がある.本稿では子から親への移転に関するさまざまな経済学的仮説とそれぞれの仮説を検証した実証研究について総括し,今後の研究課題について考察する.欧米,特に米国についての最近の文献は子の利己性を前提とした戦略的遺産動機仮説を支持しておらず,子の利他性の重要性を支持する研究が多い.他方,日本についての実証研究では親から子への移転と介護・同居の間の正の関係をもって戦略的遺産動機仮説やその他の家族における利己主義に基づく仮説への支持と結論づけるものが多い.しかし介護する子への移転は介護負担による効用損失に対する親の利他的な補償行為であるとも解釈できるため,論拠に乏しい.加えて,日本と欧米では分析的枠組みの違いが大きく,観察結果の相違の解釈は容易ではない.明確な解釈を提供できる経済理論,内生性を考慮した計量手法,そして国際比較可能な分析的枠組みに基づいて検証を積み重ねていくことが求められている.