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論文要旨

Vol. 63, No. 2, pp. 143-154 (2012)

『2000年代のロシアの経済発展メカニズムについての再考』
田畑 伸一郎 (北海道大学スラブ研究センター)

2000年代のロシアの経済発展メカニズムは,油価高騰に基づく成長,家計消費主導の成長,オランダ病を伴う成長という3点で特徴付けられる。この時期には製造業の成長が見られ,ロシアはオランダ病に感染しなかったという議論が最近出されているが,ロシアはオランダ病に罹ったものの,次の要因により症状が重くならなかったのではないかと考える。それは,①1990年代に競争力の低い産業がおおむね淘汰されてしまった,②油価の異常な上昇が異常な所得増加をもたらし,所得階層別の需要の増加を引き起こした,③エネルギーの内外価格差が製造業企業にとって大きな価格補助金となった,④ロシア中央銀行の外国為替市場への大規模な介入が輸入の増加をある程度抑えた,の4つである。2000年代の製造業の成長を分析すると,オランダ病の兆候が見られるとともに,上記②の要因により,輸入と生産が同時に増加した部門もあったことが分かる。