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論文要旨

Vol. 59, No. 4, pp. 340-356 (2008)

『内部労働市場下位層としての非正規』
玄田 有史 (東京大学社会科学研究所)

本稿は配偶者を持たない非正規就業3千名以上の独自調査から,非正規の内部労働市場化仮説を検証した.従来の二重労働市場論によれば,非正規就業は外部労働市場に属し,仕事上の学習機会は乏しく,処遇も経験や個人の能力とは無関係に一律と理解されてきた.しかし分析からは,非正規就業にも職場における継続就業年数と年収に正の連関があり,過去の正社員経験も評価されている証左が得られた.それらは企業内訓練を通じて経験に応じた収入が支払われる年功的処遇もしくは能力に応じた選抜的処遇が行われている事実を意味し,むしろ内部労働市場の下位層と合致する.加えて職場に相談相手がいたり,終業後に飲食を共にする等,正規雇用者と親密な交流がある程,非正規処遇は改善される傾向も見られた.以上から,短期転職を繰り返す非正規への集中支援及び正規・非正規間交流環境の整備等,正規・非正規間問題を内包する世代間雇用問題の解決方向性が示唆される.