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論文要旨

Vol. 59, No. 4, pp. 305-316 (2008)

『企業出荷価格の粘着性―アンケート調査とPOSデータに基づく分析―』
阿部 修人 (一橋大学経済研究所), 外木 暁幸 (一橋大学大学院経済学研究科大学院生), 渡辺 努 (一橋大学経済研究所)

本稿ではわが国の食品・日用雑貨を生産・出荷する企業123社を対象として価格設定行動に関するアンケート調査を行い以下のファインディングを得た.第1に,約9割の企業は原価や需要が変化しても直ちには出荷価格を変更しないという行動をとっており,その意味で価格は粘着的である.その理由としては,原価や需要の情報収集・加工に要する費用や戦略的補完性を挙げる企業の割合がそれぞれ約3割であり,粘着性の主因である.一方,メニューコストなど価格変更の物理的費用は重要でない.第2に,価格の変更頻度については、過去10年間では出荷価格を一度も変更したことのない企業が3割を超えており強い粘着性が存在する.この粘着性は他国と比較しても高い.第3に,アンケートの回答とPOSデータをマッチングさせることにより,メーカー出荷価格変更時における末端価格の変更頻度を大きく上回っている.これらの結果は,末端価格の変動の大部分がメーカー企業ではなく流通企業の行動を反映していることを示唆している.