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論文要旨

Vol. 59, No. 1, pp. 46-58 (2008)

『マーシャルにおける経済学と倫理』
西沢 保 (一橋大学経済研究所)

本稿は、マーシャルの経済思想を社会改良の時代における歴史・倫理的思考との関わりで捉え、彼の思想体系のなかで考察しようとする。マーシャルにとって、経済学は富の科学であると同時に人間の研究であり、彼は「理論化された人間の歴史」としての社会科学を構想していた。狭義の経済学の対象を可測的な経済的動機、貨幣尺度に関係づけられる部分に限定しようするが、倫理学から経済学に進んだマーシャルは、「富の増大よりも生活の質の改善」を説き、経済的進歩は生活の質、生活基準の向上との関係で捉えられていた。マーシャルの思想には「生活こそが富である」というラスキンの思想と共通するものがあり、彼は、生活と富、人間と経済を結び付けようとしていた。