1997-98年アジア通貨危機の時期のアジア6カ国通貨の日次データによる通貨危機の「伝播」(contagion)の現象を分析した.過去5営業日の累積加重平均を用いて計算した通貨下落率のなかで,最も大きな下落幅を示した通貨を「震源」と定義し,伝播の因果関係を特定化したことが論文の最大の特徴である.日次レベルでの伝播に関する研究はこれまで先行研究がほとんどない.震源から波及国への超短期での伝播の理由として,貿易リンクを通じた投資家の期待形成がある.分析の結果,(1)インドネシアや韓国からの伝播の影響が大きい,(2)通貨下落の震源は重要なニュースに対応する,(3)2国間の貿易リンクと日次データで計測した伝播には正の相関が見られることが明らかとなった.