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論文要旨

Vol. 54, No. 3, pp. 223-236 (2003)

『ロシア企業の法制構造』
岩﨑 一郎 (一橋大学経済研究所)

現代ロシアの企業体系は主要先進国のそれとさほど遜色のない程度にまで多様化している。今や株式会社は、中堅以上の工業企業の間で最も普及した会社形態である。ロシアの会社法は、経営者や大株主をして、会社経営に関する法的基準が自発的に遵守されるような「自己拘束的」会社組織が実現されるように、株式会社のガバナンス・メカニズムを規定している。その設計思想は、「双頭の指導体制」に象徴される経営監督機構、株主と会社役員の権限関係、内部監査制度のあり方等、現行制度の随所に体現されている。しかし、閉鎖株式会社の圧倒的な広がり、インサイダー所有の支配的状況、内部監査制度の歴史の浅さ、公権力の法執行力の脆弱性といった一連のファクターは、多くの企業の自己拘束力を掘り崩しており、その結果、ロシアでは今日も会社法に違反する行為が絶えない。このことは、株式会社制度の複雑化や不透明性を招く私有化企業や人民企業の法的特殊性と共に、ロシア企業システムの深刻な問題点である。