本稿の目的はいわゆる「日本的経営」の海外への移転可能性ならびにその効果について、経済自由化が急速に進展しつつあるインドを対象に職務意識の観点から、経営移転の真の意味とその受容状況を実証的に捉えることである。
この目的のため、我々は1998年、インドで日系合弁企業3社とインド企業2社の従業員計247吊に対し、職務意識調査を行った。それというのも経営の移転とは、一種の「文化移転」に他ならないがゆえ、その受容は当該企業従業員の職務意識(あるいは価値観)の変容を伴って、はじめて実現しうるものだからである。
そして我々の調査データに対する統計的判別分析の結果、いわゆる「日本的経営」は、日系合弁企業の従業員とくにその労働者層において、十分好意的に受け入れられつつあることが確認された。すなわち各種の日本的制度や慣行の導入により、「職務満足」や「組織上の一体感」などが大きく増進され、その結果意欲の高い労働力が形成されつつあることが判明した。こうした順調な経営移転の背後には、平等主義や集団主義に対する好意的受容が存在するものと判断される。