HOME » 刊行物 » 経済研究

論文要旨

Vol. 53, No. 1, pp. 24-39 (2002)

『パキスタン北西辺境州における動学的貧困の諸相』
黒崎 卓 (一橋大学経済研究所)

この論文では、途上国の低所得世帯がリスクに対してどのように脆弱であるのか、またどのような階層が特に脆弱であるのかについて、パキスタン北西辺境州農村部の2時点パネルデータを用いて定量的に分析した。カテゴリー分けに基づいた分析と、FGT貧困指標の慢性的貧困と一時的貧困への要因分解分析とを用いた結果、第一に調査地の世帯経済は所得の大きな変動にさらされているが、それがそのまま消費の変動につながらないようなリスク対処メカニズムがある程度機能していること、第二にこれらのメカニズムを十分利用できずに所得の低下が消費の著しい低下に結びついてしまう世帯が少なからず存在し、このような世帯においてはこどもの教育の切り捨てなど長期的にも公正水準が著しく低下するような対応がとられていること、第三に、動学的に脆弱な貧困層には、女性が世帯主の世帯、土地を持たず労働力が農業労働や日雇いなど上安定なものに限られている世帯などが含まれていること、などが判明した。