Lucas は「サプライサイドの経済学」において、均衡成長において資本所得税率をゼロとする税制改革が、資本ストック、消費などにきわめて大きな効果を持つことをシミュレーションによって示した。しかし、その分析は、税制改革の前と後の均衡の比較であり、均衡間の移行過程を分析したものではなかった。しかし、税制改革にともない資本蓄積が進むなかで、改革当初では消費や余暇が下がる。この論文は、効用関数と政府の予算制約に関して適切な仮定を設けたうえで、税制改革にともなう移行過程を分析し、次の2点を明らかにする。第1に、最適な資本所得税率はゼロとはならないが、Lucasがアメリカの現行税制と想定した40%と比べるとはるかに低い。第2に、個人の厚生改善の程度は、均衡の比較の場合と比べてかなり小さくなるが、人的資本の成長を加味すれば十分大きい。したがって、移行過程を考える場合においても、資本所得への課税は、一層の引き上げが必要である。