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論文要旨

Vol. 51, No. 3, pp. 193-208 (2000)

『農業発展と作付変化―パンジャーブ農村の100年―』
黒崎 卓 (一橋大学経済研究所)

この論文では、農業発展の過程における作付構成変化の役割を、南アジアのパンジャーブ農村における今世紀100年近くにわたるデータを用いて、実証的に考察した。本稿の新たな分析視角は、土地生産性の上昇を、作付構成の変化、とりわけ作物間、地域間、農家間の作付シフトと関連づけて多面的に分析するところにある。実証分析においては、インド、パキスタンという一国レベルのデータと、パンジャーブ地域内の県データ、それに農家のマイクロ・データとを組み合わせて用いた。定量的分析結果から以下のことが明らかになった。第一に、1947年独立後のパキスタン、インド、及び独立前のパキスタン地域における農業成長は、作物間の作付シフトに帰せられる部分が小さくない。第二に、パキスタン・パンジャーブ地域の農業発展は、付加価値が高い商品作物へのシフト及びそれらの作物の生産に比較優位を持つ地域や農家へのシフトといった、生産の特化(Specialization)が主導する局面にあり、作物構成の多様化(diversification)が発展の重要な役割を果たす局面にはいまだ至っていない。第三に、跳民地期においては特化の進み方が県ごとに多様であったのに対し、独立後はほとんどの県で一様な特化が急激に進んだ。この変化は、農産物市場の広域化と連動していると考えられる。