《厚生の平等》論に代替する《資源の平等》論を提唱したロナルド・ドウォーキンの《責任と補償》理論は、厚生経済学に新たな非厚生主義的基礎を据えようとする最近の潮流のなかにあって、興味深いパラダイムを形成しつつある。ドウォーキンの示唆を、現代のミクロ経済学と公理主義的交渉理論の分析的枠組みを用いて厳密に定式化してその整合性の検討や公理的特徴付けを行う作業はジョン・ローマーやマーク・フローベイたちによって開始されたが、ドウォーキンの《責任と補償》のパラダイムが厚生経済学に対してもつ意義は、依然として汲み尽くされていない、本稿は、厚生経済学のこの新たな潮流を簡潔に展望して現状を評価するとともに、今後の一層の研究によって明らかにされるべき問題を示唆することに充てられている。また、ドウォーキンの《責任と補償》のパラダイムの広い射程距離を例示する目的で、地球温暖化問題の厚生経済学の骨格を説明している。