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論文要旨

Vol. 50, No. 1, pp. 54-67 (1999)

『国際産業政策と多国籍企業』
深尾 京司 (一橋大学経済研究所), 細谷 祐二 (通商産業省通商産業研究所)

経済の国際化につれグローバルな視点で産業政策をデザインする必要が高まっている。本論文では国際産業政策という比較的新しい経済政策について考察した。今日の経済国際化の主な担い手は多国籍企業であり、国際産業政策を実施する手段としても、また国際産業政策で裨益する対象としても多国籍企業は重要な意味を持つ、本論文では多国籍企業と国際産業政策の関係に焦点を当てた。多国籍企業は操業するホスト国の方に従うと同時に、投資母国の方に従う親会社の指令を受けるという二重の性格を持つため、日本の政策がホスト国の政策と対立し国際摩擦を生む可能性がある。また、自国を母国とする多国籍企業の利益と自国の利益が一致しない可能性にも注意する必要がある。
今回、金融・経済危機を経験した東アジア諸国をどのように支援するかは、現在の日本が直面する重要な国際産業政策上の課題と言えよう。たとえば、日系現地法人が雇用を維持し、輸出を拡大すれば、通貨・経済危機で打撃を受けたホスト国の経済回復に大きく寄与するだろう。しかし、通貨危機およびその後の回復過程のもとで現地法人の行動がどのような要因に依存して決まるかについてはほとんど研究がない。そこで論文の後半ではマイクロデータにより過去の通貨危機下の日系現地法人の行動を分析した。その結果、実質為替レートの下落が大幅だったりホスト国の開放度が低下する場合には、現地法人の雇用はより大幅に減少する傾向があることがわかった。また雇用調整はホスト国の経済環境だけでなく現地法人の属性にも依存し、輸出率の高い現地法人は実質為替レートの下落によってむしろ雇用を増やす傾向があることがわかった。現地法人の行動のこの差異は、長期的にみると途上国にとって、貿易障壁を高くし現地販売率の高い現地法人の立地を促すよりも、自由貿易の促進により自国の比較優位を利用する輸出基地型の現地法人を誘致することによって、通貨危機に対する経済の抵抗力を強めることができることを意味する。