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論文要旨

Vol. 73, No. 3, pp. 210-224 (2022)

『健康と貧困 --新たな貧困率の推計の試み--』
小塩 隆士 (一橋大学経済研究所)

本稿では,健康から見て意味のある貧困線や貧困率を,厚生労働省の「国民生活基礎調査」の1986年から2016年調査の世帯票・所得票・健康票の結果に基づき,健康格差最大化アプローチ,最尤法アプローチという2つの方法によって探索的に検討する.得られた主な結果は,次の通りである.貧困線は通常,所得中央値の50%ないし60%として定義されるが,健康格差を最も浮き彫りにするという点で,健康から見て意味のある貧困線は,そうした通常の貧困線より幾分高めに設定される.したがって,貧困率も通常定義される貧困率もやや高めになる.つまり,通常の貧困線や相対的貧困率の水準は,健康面から見るとやや低めになっていると評価できる.この結果は,所得以外の貧困要因(学歴・セーフティーネット・居住環境)を考慮しても,また,貧困の深刻さを考慮にした貧困ギャップ率で分析しても,基本的に変わらない.