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論文要旨

Vol. 73, No. 1, pp. 1-14 (2022)

『日本における退職消費パズルの検証』
丹後 健人 (横浜市立大学経済学研究科大学院生)

本論文では,退職後に消費水準が低下するといういわゆる「退職消費パズル」について,「日本家計パネル調査(JHPS/KHPS)」を用いて検証した.本論文の発見は以下の三点である.第一に,退職後に消費が減少していた.退職後の「家庭内生産(home production)」や「仕事関連消費(work-related consumption)」を除いた場合でも,退職後は消費が約10%減少していた.第二に,退職後の消費は少なくとも三年にわたって減少していた.退職後の消費が減少し続けているかについては,これまで先行研究が必ずしも明らかにしてこなかった点である.本論文では,時系列方向に長いJHPS/KHPSの特性を活かし,退職後の消費が「L字型」に減少し続けていることを実証した.第三に,退職後の消費減少は,貯蓄の多寡で予測可能であった.本論文では,貯蓄の多寡が時間選好率と強い相関をもつことを踏まえ,時間選好率の高低で標本を分割して推計を行ったところ,時間選好率の高い家計だけが退職後に消費を減少させていたことが明らかとなった.