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論文要旨

Vol. 72, No. 2, pp. 128-139 (2021)

『統計的決定と主観的期待効用 --Wald と Savageを結ぶ試み--』
宇井 貴志 (一橋大学大学院経済学研究科・経済学部)

ワルドの統計的決定理論とは,推定や検定を含む包括的な統計学理論である.その基本定理である完備類定理は,不確実性下の意思決定において事前分布を用いることを正当化する最初の数学的な結果である.完備類定理は一見,サヴェージの主観的期待効用理論と関係がありそうだが,両者は目的も内容も異なっている.その背景には,非ベイズ統計学を支持するワルドとベイズ統計学を支持するサヴェージの学問的立場の違いがある.しかし,Nakada, Nitzan, Takeoka, and Ui (2020)の結果を用いると,完備類定理の論理を拡張することでアンスコム=オーマンの主観的期待効用理論と等価な理論を構築できる.つまり,ワルドの理論を拡張することでサヴェージが解決した問題に別解を与えることができるのだ.こうした意味において,学問的立場の異なるワルドとサヴェージの理論や問題意識は,数学的にみると実は密接に関連しているのである.