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論文要旨

Vol. 65, No. 3, pp. 238-249 (2014)

『失われた20年の日本の財政政策と税制』
祝迫 得夫 (一橋大学経済研究所)

2008年以降の世界金融・経済危機を経て,極端な財政緊縮主義(austerity)を見直す動きが世界的に見ても本格化しており,深刻な経済危機への対応としての財政出動の有効性については肯定的な評価がなされるようになっている.そのような評価の大きな転換を踏まえ,本稿では 1990年代以降の「失われた20年」における日本の財政政策と税制の変遷を振り返る.第1に,近年の日本における財政支出・政府投資の内容を精査して行くと,所得再分配の手段としての機能がより高まっており,結果として政府投資は非効率化し,景気刺激策としての有効性が低下したことが指摘される.第2に,1990年代中盤の税制の構造転換により所得税体系がフラット化し,同時に税収に占める割合が直接税から間接税へと大きくシフトした結果,税収全体の変動は小さくなり,経済成長率との相関も低下したことを示唆する実証結果が示される.したがって1990年代前後に財政のビルトインスタビライザー機能が低下した可能性が高く,「失われた20年間」における日本のマクロ財政政策の効果を的確に評価しようとするならば,この点を考慮に入れて分析を行う必要がある.ルールとしての財政再建路線は堅持されるべきであるが,その一方で財政政策を発動する必要があるのはどのようなタイミングか,その場合にどのような財政支出項目を優先すべきかついて,「失われた20年」の出来事をいま一度注意深く検討する必要がある.