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論文要旨

Vol. 62, No. 4, pp. 342-355 (2011)

『母親の就労が家計生産に与える影響』
小原 美紀 (大阪大学大学院国際公共政策研究科), 神谷 祐介 (独立行政法人国際協力機構)

本研究は母親の市場労働が家計生産に与える影響について明らかにする.具体的には,家計生産の中でも最も大きな時間を占める「調理」をとりあげ,母親の就労によって調理時間が減少する可能性について再検討する.分析には,先行研究で使われてきた時間配分データではなく,家計の購入品目データを用いる.購入品目から分かる調理時間(家計生産時間)を必要とする財の購入状況を見ることで,家計内で生産される食事量(家計生産量)を測定する.
 日本の Scanner panel data を用いて,母親や家計の観察される属性と観察されない属性を考慮しながら分析した結果,第一に,母親の就労は家計生産量を減少させることが分かる.母親の就労により家計内で手間のかかる調理が敬遠され,既製食品を市場から調達する量が増加するといえる.第二に,母親の就労による家計生産抑制効果は生活水準の低い家計で大きいことが示される.第三に,上位階級で家計生産抑制効果が見られにくいことは,家計で作られる健康的な財への選好がこの階級で強いことが理由であることが示される.下位階級では,とくに母親がパートタイム労働を行う場合に,家計での調理品よりも健康に良くないとされる財を市場から購入する傾向が確認される.