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論文要旨

Vol. 60, No. 3, pp. 205-227 (2009)

『21世紀における労働搾取理論の新展開』
吉原 直毅 (一橋大学経済研究所)

21世紀に入って以降の近年の労働搾取理論に関する数理経済学的研究の動向についての概括と展望を与える。第一は、労働搾取の定式に関する論争で新たに展開された主観主義的定式について、批判的に検討を行う。第二に、搾取の客観主義的定式に関して、これまで数理的マルクス経済学において為されてきた多様な提案を踏まえ、いずれの提案がもっとも妥当性を有するかに関する公理主義的分析を紹介する。とりわけ、公理的分析を通じてもっとも妥当性を有するものとして提案された搾取の定式が、それ自身、「労働搾取」という社会科学的概念を十分に直観的に表現し得ているか否かという観点及び、それらの定式の下で、いわゆる階級搾取対応原理(CECP)マルクスの基本定理(FMT)の頑健性が維持されるか否かという観点で議論する。第三に、動学的資源配分問題にモデルを拡張した際に、搾取関係及び階級関係が長期的に継起的であるか否かに関する、最新の研究成果について概観する。