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論文要旨

Vol. 59, No. 4, pp. 289-304 (2008)

『賃金・雇用調整と価格決定方法』
神林 龍 (一橋大学経済研究所), 有賀 健 (京都大学経済研究所)

マクロ経済学では,物価水準の変動との関連で進められた価格形成行動に関する研究の結果,価格形成行動は労働投入の調整と不可分であることがわかってきた.しかし伝統的な労働経済学では,いうなればWage Takerの仮定のもと,両者の関連について明示的に議論されてこなかった.われわれは,経済産業研究所の協力のもと,欧州中央銀行が行った調査と比較可能な形で,雇用・労働時間調整,賃金調整,製品価格形成行動の三つの論点を同時に観察する企業調査を実施した.本稿はその結果報告である.まず賃金調整について日本調査とドイツ調査を比較した.さらに,日本における賃金調整と雇用調整の関係を整理した.最後に,価格形成行動と賃金調整,雇用調整との関連を考察した.その結果,(1)賃金調整を妨げる要因として最重要視されるのは日独共通で労働者のモラルダウンであること,(2)賃金調整を経ずに雇用調整のみを実施した企業は競争的な労働市場に直面していること,(3)共通製品市場が競争的なほど賃金調整よりも雇用調整が多用されることなどがわかった.