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論文要旨

Vol. 58, No. 2, pp. 163-186 (2007)

『外国為替サーベイ・データの比較分析―JCIFとWEIS―』
浅子 和美 (一橋大学経済研究所), 小巻 泰之 (日本大学経済学部), 竹田 陽介 (上智大学経済学部), 地主 敏樹 (神戸大学大学院経済学研究科), 林 康史 (立正大学経済学部)

本論文では,ドル円為替レートの予測に関する周知のJCIFサーベイと新規に発掘されたWEISサーベイの2つのサーベイ・データについて,それらの統計的属性に関する比較分析を行う.JCIFサーベイを利用した先行研究によると,東京外国為替市場の期待形成メカニズムは合理的ではなく,期近予測(1ヶ月先)はバンドワゴン予測,期先予測(3ヶ月先及び6ヶ月先)は回帰的予測の特徴を示すとされる.しかしながら,WEISサーベイでは必ずしもJCIFサーベイから得られる結果が追認されず,新たな知見が多く得られる.例えば,WEISサーベイでは期近予測と期先予測との予測で特徴的な差異がみられず,ともに過去の情報と有意な関係になく,その意味で「合理的な予測」であると指摘できる.もっとも,情報量を追加すると,WEISサーベイにも一種の回帰的期待形成仮説に従う側面もある.
 両サーベイにおける予測形成の差異は,サーベイ回答者の予測形成時点における情報交換の有無に依存していると考えられる.JCIFサーベイは,電話等による単純な聞き取り調査であり,サーベイ回答者は個別の情報に基づいて予測する.対照的に,WEISサーベイでは,サーベイ回答者が一堂に会して情報交換してから予測を行うことから,回答者の保有している情報集合は,他者の情報に影響される状況にある.