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論文要旨

Vol. 56, No. 4, pp. 331-347 (2005)

『日本の産業間・産業内国際分業と対外直接投資―国内の物的・人的資本深化への影響―』
伊藤 恵子 (専修大学経済学部), 深尾 京司 (一橋大学経済研究所)

過去20年間の貿易データを概観すると,日本は特に東アジアとの間で,製品貿易を拡大させた.アジア諸国の多くは,非熟練労働が比較的豊富で,物的資本や熟練労働が不足していると考えられるから,これら諸国との貿易拡大は,日本国内における物的資本や熟練労働に対する需要を拡大したと推測される.本論文では,貿易構造の変化が国内生産要素市場に与えた影響を実証的に検討し,以下の4つの結果を得た.第一に,貿易に体化された生産要素量の変化を見たところ,日本は物的資本や熟練労働集約的な財をより多く輸出する方向に特化パターンが変化した.第二に,マクロ経済全体の資本労働比率と熟練労働比率の上昇過程において,そのほとんどが産業間効果(要素集約度が高い産業の拡大)よりも産業内効果(各産業内の要素集約度の上昇)に帰せられることがわかった.これは産業間貿易よりもむしろ産業内貿易を通じて,国際分業が進んだ可能性があることを示唆している.第三に,回帰分析の結果,国内の熟練労働シフトに対して,特にアジアとの垂直的産業内貿易の進展が大きな正の影響を与えていることが示された.1988-2002年に,製造業の国内生産額合計に対する対アジア垂直的産業内貿易額の比率が年率約31.0%ずつ増加したが,回帰分析の結果を用いて概算すると,その比率の増加によって,同期間の造業全体の熟練労働者シェア上昇分の44.6%を説明できることになる.第四に,日本企業の海外生産活動は,アジアだけではなくそれ以外の地域における活動拡大も,国内熟練労働シフトに正の影響を与えていることがわかった.