
公的年金をめぐる争点給付建て・掛金建て[defined benefit plan/defined contribution plan] みなし掛金建て[notional defined contribution] 積立方式・賦課方式[funded financing/pay-as-you-go financing] 未積立ての年金債務給付建ての年金を積立方式で運営する場合、理論上、年金純債務は発生しない。しかし実際は単純な理論的想定とは異なる。積立方式の年金保険料は各種の基礎率(運用利回り・物価上昇率・賃金上昇率・死亡率など)を想定して算出される。現実の積立金利回りが予定利率を下回ったり、予想を超えるインフレや賃金上昇があったり、予想以上に長生き(死亡率が低下)したりすると、年金純債務が発生する。それを未積立の年金債務(または積立不足)という。未積立ての年金債務は企業会計上、貸借対照表に明記しなければならなくなった。その存在は企業の格付けにマイナスに作用するおそれがある。 給付建て年金の長短給付建ての公的年金を賦課方式で運営すると、制度創設直後から老後の安心につながる年金給付を支給できる。またインフレや賃金増を乗り越える形で老後所得を安定的に保障しうる。ただ、少子化が進行したり低成長経済になったりすると年金財政の安定的維持がしだいに困難になる。年金保険料の引上げは現役組の生活水準を引下げ、企業を人件費負担の重圧で苦しめるおそれがあるからだ。また若者の中には年金保険料を国に払い込むより自分で老後のために貯蓄したほうがましだと考える人が増えてくる。そうすると年金給付が一部削減されたり国庫負担の引上げが行われたりする。 年金制度の空洞化年金保険料を拠出すべき人や事業主が保険料を拠出しなくなり、保険料収入に穴が空いていくことを「空洞化」と呼ぶ。国民年金は現在、保険料の未納問題で苦しめられている一方、厚生年金も雇用形態の多様化が進むなかで空洞化が深刻になりつつある。 雇用形態から中立的な年金制度事業主は年金保険料負担を節約するために雇用形態の多様化(パート・派遣・請負契約・季節労働の社員)を積極的に進めている。ただ、このような雇用形態であっても給与所得者は原則として厚生年金に加入すべきだという意見も根強い。彼らが厚生年金に加入するためには、事業所ごとの賃金支払い総額をベースにして事業主負担の年金保険料を徴収する必要がある。なお、この場合、年俸制を採用したりボーナス払いの賃金部分を拡大したりしても、事業主は保険料負担を節約することができなくなる。 年金の完全個人単位化公的年金の保険料負担や給付算定をすべて個人単位で設計する考え方。この考え方の下では遺族年金の存在は否定される。また、現役時代の賃金格差がそのまま老後に持ちこされる。男女の賃金格差が歴然としており、しかも当分の間、その格差解消がむずかしい場合、女性の多数派が年金の完全個人単位化を支持するかどうか。なお夫婦の間で年金分割を認めれば、個人単位化のメリットを女性は享受することができる。 二重の負担年金財政を賦課方式から積立方式に切りかえる際に生じる負担。賦課方式の年金では世代間扶養が順送りになされる一方、積立方式の年金は同一世代内部だけで短命に終わる人から長命の人へ所得を再分配する。賦課方式から積立方式へ切り替えると、切り替え時点の青壮年層は両親や祖父母の年金を賦課方式で支えながら、自分の老後は子どもや孫をあてにせず自分の世代だけの年金積立てで備えることになる。特定の世代だけに老後生活資金を二度調達させることは平時では容易ではない。 年金一元化制度が分立したままでは産業構造等の変化に適切に対応できない。船員保険や旧3公社の共済組合そして農林年金はすでに厚生年金に統合された。国共済と地共済も制度間財政調整の開始を予定するとともに09年までに保険料率を段階的に一本化する(→「公的年金の加入制度」)。 |