『これからの日本の国際協力:ビッグ・ドナーからスマート・ドナーへ』

黒崎卓・大塚啓二郎編著

Last revision: April 3, 2015

日本評論社, 2015年, ISBN978-4-535-55794-9.
A5、356ページ、定価:税込み 2,916円(本体価格 2,700円)




 開発途上国を研究対象に、そこに住む人々の生活がどのようにしたら向上していくのができるか、私たちは長年考え続けてきました。そんな研究の経緯の中で、ここ10年ほど強く感じるのは、2つの逆風です。第1の逆風は、日本の政府開発援助(ODA)が縮小し、国際社会における経済開発・貧困削減を議論する場での日本のプレゼンスがかすみがちなこと。第2の逆風は、大学生の途上国に関する関心が下がり、わざわざつらい思いをしに途上国に出かけようとする若者の数が減ってきていることです。この2つの逆風はどこかでつながっているかもしれません。しかし日本経済の将来は、国際社会との関係なしには考えられません。このような逆風を吹き飛ばす必要があるのです。

 このような問題意識の下、日本の国際協力の今後の方向性を考えるということに焦点を絞って生まれたのが本書です。経済の長期低迷下ではODA増額よりも限られた予算の有効活用こそが重要課題。 日本発の国際協力が世界をリードするための道標をテーマに、この本を上梓しました。日本人が持っている経験知には多くの重要な真理が含まれています。しかしそればかりでなく、思い込みや誤解、普遍性に欠ける知識も含まれているかもしれません。これらを整理するには、日本がこれまで行ってきたODAの経験をふまえ、知恵をふりしぼって理論的根拠と実証的根拠を兼ね備えた産業発展支援戦略を確立する必要があるというのが本書の主張です。大事なことは、このような支援戦略を日本が打ち出すことによって、日本が国際社会における開発戦略のオピニオンリーダーとなり得ることです。そして、日本発のアイデアに他国の援助を結集させることで、「小さな日本の援助」を「大きな国際的援助」につなげることが可能になるのです。「スマート・ドナー」というサブタイトルには、私たちのそのような思いが込められています。

 なお本書の執筆陣は、日本学術会議の地域研究委員会・国際地域開発研究分科会のメンバーが中心です。この分科会の中間的成果として、日本学術会議の提言「ODAの戦略的活性化を目指して」を2011年8月に発表しておりますので、この提言もぜひご覧ください。

目次


序章 なぜ今、日本の国際協力を考え直すのか(黒崎 卓・大塚啓二郎)

第1部:これまでの日本の国際協力――アジアのビッグ・ドナーが果たした役割とは


 第1章 東アジア型産業発展と日本の役割(大塚啓二郎)
 第2章 東南アジアにおける日本のODAの変遷と課題――先発アセアンを中心として(武藤めぐみ・広田幸紀)
 BOX1 インドでのインフラ支援 : デリーの地下鉄建設(黒崎 卓)
 第3章 アフリカ開発援助における日本の役割――イギリスとの比較を通じて(高橋基樹)
 BOX2 アフリカの緑の革命の可能性(大塚啓二郎)

第2部:かつての途上国、現在の途上国からみた日本の国際協力

 第4章 韓国――開発経験とODA戦略(深川由起子)
 第5章 インドネシア――経済発展における対外債務と日本のODA(水野広祐)
 第6章 ザンビア――対アフリカ援助の政治経済学(児玉谷史朗)
 BOX3 中国――「曖昧な制度」としての対口(たいこう)支援(加藤弘之)

第3部:これからの日本の国際協力――日本発「スマート・ドナーモデル」の構築を目指して

 第7章 産業発展――日本の顔が見える戦略的支援(園部哲史)
 BOX4 途上国のための職業訓練(古川勇二)
 第8章 直接投資――日本の投資と開発途上国の発展(浦田秀次郎)
 第9章 教育普及――産業発展につながる教育支援(黒崎 卓)
 第10章 国際金融――「東アジア型マクロ経済運営モデル」と日本(高阪 章)
 第11章 環境――日本の環境ODAの展開とアジア地域環境ガバナンスの構築(松岡俊二)
 BOX5 東南アジアの防災と日本(武藤めぐみ)

終章 「スマート・ドナー」として国際社会をリードするために(大塚啓二郎・黒崎 卓)

索引


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