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過去のひとこと

・チャタムハウス会合
(2016年1月4日)

11月に国際経済交流財団のお招きで、ロンドンの王立国際問題研究所(RIIA)で開催された会議に出席し、日本の労働問題について報告をしてきた(報告資料)。会議室は、チャタムハウスで最も由緒ある部屋のようであった。私にとって印象的だった発見は、

1) 参加者は会議中に得た情報を外部で自由に引用・公開できるが、その発言者を特定する情報は公開できないという、チャタムハウス・ルールが、むしろ自分の情報を匿名のまま意見を発信する良い機会として機能している。

2) 二酸化炭素排出問題に関する既存の分析の多くが、技術的な問題や、外交的な問題に偏っており、仮に中国をはじめ一部の国の合意・協力が得られなくても排出削減を効率的に達成する経済政策はどのようなものか、に関する議論が不足している(Krugmanが以前New York Timesに書いていた、輸入品に相手国生産での環境負荷に応じて関税を課すという議論、例えば“The Climate Domino”という2014年6月5日付論説、を思い出した)。

3) 先進国のほとんど全てが人口減少に苦しんでおり、欧米の経験に照らして(ドイツはその例外のようだが)移民拡大は、日本の人口減少の打撃を一部和らげることには繋がっても、根本的解決にはほど遠い。

4) 日本企業は、国際的なルール作りや政府の貿易政策には、受動的に対応する傾向があり、日-EU自由貿易交渉でもあまり積極的では無いようである。

5) RIIAの研究者の多くが、英国外務省のOBである。

等であった。

・英国の田園
(2015年8月21日)

6月に英国ミッドランドにあるWarwick大学に1ヶ月滞在する機会を得た。近くにある大都市Coventryはスポーツカージャガーの愛好者等、一部の人達以外には退屈な町だと思うが、大学の近くにはKenilworthという素敵な町がある。休みの日には多くのフットパス(田舎道)を楽しむことができた。Kenilworth城の近くには、エリザベス1世が愛人と花火や船遊びを楽しんだという地域がある。そこは数百ヘクタールにわたって、今も残る生け垣に囲まれている。鹿を飼っておいて貴族が狩猟を楽しんだのだという。

その中に立ってはっと気がついた。英国の田園は楽園のようだけれど、鹿や牛や羊や豚を飼う生け簀なのだと。私は岐阜出身で鮎が好物だが、養殖場のウェブページを見て愕然としたことがある。清流を堰き止めた池ではなく、工場のようなタンクで育てているように見えた。

酪農と養殖、どちらがより忌まわしいのだろうか。

・日本経済新聞社によるFinancial Timesの買収に寄せて
(2015年7月31日)

10年ほど前になろうか、日本を代表するA新聞の二人の論説委員とお話しする機会があった。私は「なぜA新聞はニューヨーク・タイムズのように長期的視点に立った解説や論説をあまり載せないのですか」とお尋ねした。私の記憶が正しければ、そのお返事は、「A新聞はニューヨーク・タイムズのような地方紙と異なり全国紙です。読者数が違います」だった。では、貴社で最も重視されていることは何ですか、と更に尋ねたところ、スクープですとのことだった。

その後、外国人を含め多くの方々と話す度に、日本にもThe EconomistやFinancial Timesのような新聞・雑誌が欲しいよね、と意気投合して来た。

今回、日本経済新聞社がFinancial Timesを買収したのは、快挙とはまだ言えないだろうが、壮挙ではある。日本経済新聞はもともと株屋さんの新聞で、企業の意向を反映した記事を載せると聞いた気がする。また教育面でもここ数年、大学からの宣伝収入を期待してか、文科省の主張を鵜呑みにした記事が目に余った(最近数週間、やや離反している印象があるが)。買収を機会に、日本経済新聞にThe EconomistやFinancial Timesのような記事を今後多数期待したい。

・日経・経済図書文化賞/OECDのWPIA会合
(2012年11月16日)

3月に刊行した本『「失われた20年」と日本経済』で、2012年の日経・経済図書文化賞を受賞しました。日本の偉大な経済学者達がこれまで受賞されている本賞を頂いて、大変名誉なことだと思います。

この受賞と前後して、11月初旬にOECDで開催されたWorking Party on Industry Analysis (WPIA) 年次会合出席のためパリに出張してきました。この会合では、WPIAの副議長に選出されました。任期は1年間です。WPIAはCommittee on Industry, Innovation and Entrepreneurship (CIIE) の下部組織として、生産性や雇用創出といった産業のパフォーマンスに関する指標の開発と定量分析を担当しています。

今回のWPIA会合では、世界経済危機後の各国生産性動向、特許の質指標の開発、無形資産の測定、どのような企業が雇用を創出しているか、等の研究成果が話し合われました。経済危機後のパフォーマンスについて先進国間で大きな違いがあること(例えばスペインでは建設業を中心に生産性が急上昇しているのに対し、英国では生産性が著しく停滞している)、2000年代に入って日本だけでなく英国やオランダなど多くの国で無形資産投資が急速に停滞しつつあることなど、知らないことも多く勉強になりました。金融危機が生産性に及ぼす長期的な効果や、無形資産投資の決定要因が、今後更に重要な研究対象になる気がします。OECDコンファレンス・センター食堂の2階にあるLe Restaurant des Nationsで行われたWPIA幹事の昼食会も印象的でした。また、WPIA会合の直前にOECDの科学技術産業局が主催した生産性ワークショップで招待報告しました。私の報告資料は以下の通りです。
Intangible Investment in Japan [PDFファイル:670KB]

・日本の生産性と経済成長における構造問題
(2012年10月9日)

九州産業大学で10月7-8日に開催された日本経済学会2012年度秋季大会のパネル討論「日本経済の構造問題:生産性、高齢化、労働市場」で報告してきました。座長は宮川努学習院大学教授、報告者は、岩本康志東京大学教授、川口大司一橋大学准教授と私でした。私は生産性と経済成長の視点から、構造問題について報告しました。

私の報告資料は以下の通りです。
日本経済の構造問題:生産性と経済成長 [PDFファイル:1.1MB]

・日本の製造業空洞化についてフィナンシャル・タイムズから取材を受けました
(2012年9月3日)

8月29日付のFinancial Timesの記事
“Japan Inc intensifies investment abroad,” Ben McLannahan in Tokyo
に、日本の対外直接投資と製造業の空洞化に関する私への取材結果が掲載されました。

8月31日付の日本経済新聞電子版の翻訳記事「日本を去る製造業、空洞化の議論どこへ」で翻訳を読むことができます。

・Asia KLEMSデータベースプロジェクト
(2012年7月10日)

2012年7月5-6日にソウル大学Hoam国際会議場およびソウルの韓国生産性センターでAsia KLEMSデータベース管理ワークショップが開催されました。昨年の創立会議に続く、第2回目のAsia KLEMS会議になります。私は、組織機関であるAsia KLEMS委員会メンバーとして出席してきました。共催機関はソウル大学、韓国生産性(KPC)センター、経済産業研究所、一橋大学G-COE Hi-Stat、学習院大学ERIIでした。

Asia KLEMSプロジェクトは、アジア諸国について、産業別に全要素生産性を厳密に測定するため、産業連関表や詳細な属性別の労働投入や資産別資本ストックデータ等を含むデータベースを構築することを目指しています。このようなデータベースを生産性計測の専門家は一般にKLEMSデータベースと呼んでいます(Kは資本、Lは労働、Eはエネルギー、Mはエネルギー以外の中間投入財、Sは中間投入サービスの意味です)。

KLEMSデータベースが、詳細な属性別の労働投入や詳細な資産別資本ストックデータを含むのは、1時間の労働の生産への寄与が、労働属性毎に異なり、また1億円の価値の資本ストックの生産への寄与が、資本財毎に異なると考えるためです。企業が熟練労働者に高い賃金を払うのは、基本的にその限界生産価値が高いためであると考えられます。同様に1億円分のコンピューターは、技術革新により急速に経済的価値が減価するため、1億円分の構築物を生産に投入するよりもコストが高くつく可能性が高いです。それにもかかわらず企業がコンピューターを投入する場合があるのは、コンピューターの限界生産価値が同じ価格の構築物の限界生産価値よりも高いためです。このような考えに基づき、KLEMSデータベースでは、異なった属性の労働や資本財について、その投入コスト(労働の場合は賃金率、資本の場合は資本コスト)をウェイトとして加重することにより、投入指数を作っています。KLEMSデータベースはこのように、ハーバード大学のDale Jorgenson教授や彼の共同研究者達によって開発された、国際標準とも呼べる方法に準拠して、全要素生産性を推計しています。この点で、KLEMSデータベースは、マクロ経済全体の資本ストックの総額や総労働時間を生産要素投入とみなす素朴なアプローチとは異なります。この標準を満たさない生産性データベースのことを生産性の専門家は、あれはKLEMSじゃないから...と蔑みます。

KLEMSデータベースの代表例としては、2003-08年に行われたEU KLEMSプロジェクトや、その後継とも言えるWorld Input-Output Database (WIOD) Project、ハーバード大学を中心に開始されたWorld KLEMSプロジェクトで参加各国が作成しているデータベース、これらに参加している日本産業生産性(JIP)データベース、慶応義塾大学のKEOデータベース、韓国産業生産性(KIP)データベース等があげられます。

Asia KLEMSプロジェクトはこのような質の高いデータベースを作成し、アジア諸国の経済発展や相対的な競争力の推移、国際分業構造等を比較研究することを目指しています。

今回のワークショップへの参加者は3つに大別できます。第一は既にKLEMSデータを既に完成させている日本と韓国の研究者です。第二は国際比較研究で先行しているEU KLEMSを主導したフローニンゲン大やWorld KLEMSを主導しているハーバード大の研究者です。第三はKLEMSデータを作成中の中国、インド、マレーシア、台湾等の研究者です。

今回のワークショップで印象的だったのは、方法論の面ではハーバード大、フローニンゲン大、KIPチーム、JIPチームがほとんど同一の見解を持ち、比較的容易に合意に達することができたこと、中国とインドの作業が意外に迅速に進んでおり、1年程度のうちにこれらの国についても最初のKLEMSデータベースが報告される可能性が高いことの2点です。

仕事の話とは別ですが、ソウル大学の偉い先生に教えて頂いて、休み時間にKPCのすぐ近くの慶昌宮で開かれていた李仁星という画家の生誕100年を記念する特別展を1時間だけ見る機会がありました。韓国独自の西洋具象画を築いた点で、高く評価されている画家のようです。彼は戦後直ぐに夭折したのですが、韓国の「郷土色」とも呼ばれる抑制した少し悲しい色使いといい、コントラストの絶妙な使い方やデッサン力といい、確かに十代の時から大変な才能を持った画家だったと感じました。植民地期の新聞や写真が多く展示されていたのも日韓経済史に関心を持つ私には印象的でした。展覧会は8月26日まで続くようです。ソウルへ行かれる方にはお奨めです。

・産業別無形資産投資の計測と生産性への影響-日韓比較も含めて-
(2012年6月7日)

詳細な産業別に無形資産投資を推計し、その生産性への影響を分析した論文 “Measurement of Intangible Investments by Industry and Its Role in Productivity Improvement Utilizing Comparative Studies between Japan and Korea” (宮川努学習院大学教授他との共著)を経済産業研究所のDPとして発表しました。

・中国の労働市場と為替レート
(2012年5月25日)

中国元はどれほど安すぎるのか、中国の豊富な労働供給はいつまで続くのか、等を分析した論文「中国の経済発展、産業構造変化とルイス転換点」(袁堂軍復旦大学准教授との共著)を経済産業研究所のDPとして発表しました。

・世界産業連関表データベース(WIOD)が公表されました
(2012年5月2日)

EU委員会の支援の下、フローニンゲン大等が主導してきたWIODプロジェクトの最終総会が4月下旬にオランダ北部で開かれ、専門家委員会のメンバーとして出席してきました。ウィーン、セビリアに続き3回目の総会出席になります。

作成されたデータベースは
http://www.wiod.org/
で見ることができます。私も参加している経済産業研究所・一橋大学の日本産業生産性(JIP)プロジェクトは、WIODプロジェクトに日本を代表する形で参加し、日本に関するデータを提供しています。

iPadは中国で組み立てられていますが、生産工程で生じる付加価値の多くは、日米等先進諸国が得ています。このような現象をグローバル・バリュー・チェーンと呼びます。プロジェクトの最大の成果は、この現象について世界全体をカバーするマクロ的な視点から数量的に分析することを可能にした点にあります。環境問題の分析にも活用が期待されています。

理論の基礎は、レオンチェフ逆行列の考え方だったり、整備されたデータも経済産業省やアジア経済研究所が先行して進めてきた国際産業連関表の延長という性格が強かったりと、ものすごく斬新な成果ではないのですが、OECD・WTO・Eurostatの統計担当者や産業連関表・環境問題・国際経済学の専門家達が一堂に会し、会議を重ねてきた経緯を振り返ると、国際プロジェクトの進め方として、日本の経済学者や政府の統計部局が学ぶべき点は多いと思います。

・貿易収支赤字化論の誤解
(2012年4月21日)

昔、私が経済学部生だった頃、我々がミスター経済学とあだ名をつけて畏敬していた教授が、経済学徒たるもの日経新聞は毎日読むべきだが、しばしば間違ったことも書くから気をつけなさい、という趣旨のことを授業でおっしゃったと記憶している。

4月20日の日本経済新聞の社説「貿易赤字が日本に促す改革」では、日本の貿易収支や経常収支の黒字が減少した要因を列記し、日本が黒字を稼ぐ力を失いつつあることに警鐘を鳴らしている。しかし、貿易収支や経常収支を左右する為替レートに関する議論は全くない。執筆者は為替レートが天から降ってくるものであり、貿易収支とは関係無いと考えられているのだろうか。しかしこれは開放マクロ経済学における学界の常識とは異なる主張である。

日本のように変動レート制を採用し、膨大なマイナスのGDPギャップと潜在的な貯蓄超過を抱える国では、通貨が安くなり潜在的な貯蓄超過の水準まで経常収支黒字が拡大するメカニズムがまず働くはずである。このようなメカニズムが現実に働かないのは、中国の元安操作、本来もっと通貨価値が高まっても良いドイツのような国が欧州債務危機とユーロへの参加により実質的に通貨安を享受していること、デフレのため日本が金融緩和を通じた為替政策を発動できないでいること、等のためである。憂うべきは現行の国際通貨システムの機能不全やデフレであり、貿易収支関数や経常収支関数の下方シフトではない(詳しくは、「日本の経常収支黒字減少をどのように理解すべきか」と私の著書『失われた20年と日本経済』を見られたい)。

貿易収支関数や経常収支関数の下方シフトによる黒字縮小は長期的には円安によって相殺されると考えるのが正しい。下方シフトで心配すべきなのは、交易条件の悪化(日本が資源輸入等に必要な外貨を稼ぐために日本で生産した財をこれまで以上に外国に渡す必要が生じる)であるが、この点にも社説は言及していない。あの日経新聞にしてこの誤解かと、嘆息せざるを得ない。

・オフショアリング・バイアス
(2012年4月19日)

全要素生産性(TFP)を測定する際には通常、セクターiからセクターjへの名目中間投入額を、セクターiの生産物に関するデフレーターで実質化することにより実質中間投入の寄与を計算します。しかしこの方法では、一部の産業や企業が独自に開拓した海外のサプライヤーや現地法人から特別に安価に調達する中間財・サービスを増やすと、経済学者はこれらの産業や企業の実質中間投入が減少したと誤認し、そのTFP上昇を過大評価する危険があります。これをオフショアリング・バイアスと呼びます。Erwin DiewertやSusan Housemanの研究をはじめ、米国を中心にこの問題が関心を集めています。

日本は米国と異なり、どの産業が海外からの輸入中間投入を特に増やしているかについて特別な調査に基づき統計を作成していること(非競争輸入型産業連関表と呼びます)、国内と海外の中間投入コストを比較する統計を作成していること、中国をはじめアジア諸国の安価と考えられる中間財輸入が急増していること、等によりこの問題を分析するには理想的な国です。

そこでこの問題を日本について分析してみたのが以下の論文です(共著です)。フローニンゲン大学で来週開催される世界産業連関表データベース(WIOD)プロジェクトの最終総会において、報告する予定です。

Offshoring Bias in Japan's Manufacturing Sector” [PDF: 261KB]

・比較経済発展論(夏学期・木曜日・4限)の講義をします。
(2012年4月12日)

2012年度夏学期は一橋大学経済学研究科の大学院初年度レベルの講義「比較経済発展論」を共同で担当します。これは日本・中国・朝鮮3国の長期経済発展について、数量経済史の視点から、経済発展をどのように計測するか、発展の原動力は何であったかを説明し、3国の経済発展を比較し、今後の見通しについて分析することを目的としています。中国について復旦大学の袁堂軍准教授、日本について私、朝鮮・北朝鮮・韓国について一橋大学の文浩一特任准教授が主に担当します。毎回の講義内容は以下の予定です(ただし、講義は必ずしも中国・日本・朝鮮の順序では行いません)。教科書は指定せず、毎回事前に資料を配布します。

中国

  • 前近代の中国社会と経済発展(1949年以前、洋務運動から民国政府時期の工業化)
  • 計画経済期の資本蓄積(1949-1978年、開発経済の農工関係と部門間資源移転)
  • 経済自由化と経済成長(1978年以後、改革開放後の社会主義市場経済は市場か?政府か?)
  • 中国経済成長の持続可能性(歴史的視野から見た資源配分の自由・統制・開放の流れ)

日本

  • 江戸時代以前
  • 明治期以降・地域間格差の推移
  • 失われた20年
  • 日中韓米比較

朝鮮・北朝鮮・韓国

  • 開港前の朝鮮経済(資本主義萌芽論をめぐって)
  • 植民地期朝鮮の近代化論争(土地調査事業をめぐって)
  • 植民地期朝鮮の近代化論争(生活水準をめぐって)
  • 植民地期朝鮮の工業化
  • 朝鮮半島の近代化と人口変動
  • 韓国と北朝鮮の経済比較

・日本の経常収支黒字減少をどのように理解すべきか
(2012年4月9日)

霞が関のマクロ経済政策担当部局で、日本の経常収支黒字減少をどのように理解すべきか、またどのような分析が必要とされているかについて、報告と意見交換をしてきました。魔法使いが魔法省へ行くほどではないにしても、経済学者にとって経済官庁との意見交換はいつも刺激的です。

私の報告資料は以下の通りです。

日本の経常収支の中長期的動向 [PDF: 297KB]

・3月のパリ
(2012年4月2日)

3月下旬にフランスの社会科学高等研究院(EHESS)が主催した脱工業化に関する研究会とOECDの科学技術産業局(DSTI)による無形資産に関する専門家会合に出席してきました。季節外れに暖かく、美しいパリでした。

前者では、脱工業化を生産性、需要シフト、輸入競争等に分解するLilas Demmou (OECD & Paris 8) の研究や、プロダクト・イノベーションとプロセス・イノベーションのマクロ経済効果を区別して測定しようとするJacques Mairesse (INSEE & EHESS) 達の研究が印象的でした。フランスでは、製造業の雇用縮小が非常に深刻な問題として捉えられているようでした。またフランスの経済・財政・産業省の産業政策担当者の報告も聞きましたが、EU内の政策調整やドイツと比較したフランスの競争力の分析に注力しているのが、大阪府が愛知県と競っているようで印象的でした。ユーロの下で加盟国中央銀行の実質的な役割が低下したように、関税同盟の下では加盟国通商政策担当省の役割が低下するということなのかもしれません。私の報告資料は以下の通りです。

Deindustrialization in Japan and Its Impact on Growth” [PDF: 452KB]

私の報告は、製造業の縮小を労働投入でなく生産要素投入指数で測ると、GDPに占める製造業の名目付加価値シェアの低下を、TFP上昇、要素投入の変化、相対価格の変化に綺麗に分解できるという議論と、JIPデータベースを使った詳細な産業レベルの分析が特徴です。暫定的な分析結果は、日本の脱工業化は比較的健全(TFP上昇を主因とし、また負のボーモル効果や高付加価値産業の縮小もほとんど起きていない)というものでした。今後国際比較を考えています。

OECDの会合では、従来マクロレベルで行われてきた無形資産の推計が、詳細な産業レベルや企業レベルに重点が移ってきていることが確認できました。多国籍企業の扱い、会計基準における無形資産投資の扱い、人的資本投資に関する二重計算など、ちゃんとした研究をするには問題山積であることもよく分かりました。私は日本チームの一員として、日本と韓国の詳細な産業別無形資産投資の推計結果の報告を共同で行いました。

・「失われた20年」と日本経済―構造的原因と再生への原動力の解明―が出版されました
(2012年3月23日)

日本経済新聞出版社より私の本が出版されました。1991年の「バブル経済」崩壊以降、日本経済は20年以上にわたって停滞してきました。本書は日本の経済停滞について、慢性的な需要不足や生産性の長期低迷など長期的・構造的な視点から分析を行った研究書です。生産性上昇や雇用創出について、企業や事業所レベルのデータを活用して分析を行うとともに、国際比較プロジェクトの成果に基づいて、他の先進諸国と比較して日本の何が問題なのかを示すことを目的としています。