研究計画

研究の意義

本研究の意義は次の3点である。第1はネットワーク理論の経済現象への適用である。ネットワーク理論は社会学や物理学,生物学など様々な分野で活発な研究が行われており,ネットワークの基礎的性質を調べるための数学的手法も急速に進歩しつつある。経済現象への応用がこれまで限られていた理由は,適切なデータが存在しなかったためである。本研究のコアメンバーである渡辺と植杉は東京商工リサーチとの共同作業で2003年時点における日本の法人企業80万社の企業間取引関係を描写するデータセットを作成し,その基礎的な性質を分析してきた。また研究分担者である高安は独立行政法人海洋研究所のスーパーコンピュータ(地球シミュレータ)を用いてこの80万社のネットワーク構造を解明する作業を進めてきた。本研究プロジェクトでは,このデータを多時点に拡張し,過去四半世紀における日本企業のネットワークの変遷を観察する。この種の企業間関係に関するデータセットは世界でも例がなく,独創性の高い成果を世界に向けて発信できる。

第2に,2008年6月に発表された「骨太の方針2008」は,わが国の成長力を強化するための最重要の手段として「つながり力」の強化を挙げている。企業間,企業と銀行の間の「つながり」はネットワークに他ならない。「つながり力」の強化とは,(1) 新たな企業との間で新たな技術や商品を開発し,新たな物流や新たな資金の流れを創出すること,(2) 既存のつながりについても,単なる商品の仕入・販売にとどまることなく,お互いのもつ技術やビジネスモデルを熟知し,さらなる協調の可能性を探るということである。本研究の定量的な分析を踏まえて「つながり力」を強化することがどれだけ経済成長に寄与するのかを推計し,「つながり力」強化の具体的な方策を提言することは時宜にかなっており意義深い。

第3に,データを用いた企業間関係の解析結果は,企業や金融をめぐる様々な制度設計を政策当局者が行う際の貴重な情報源となる。例として研究イメージ図には,新潟中越沖地震の際に被害を受けたある自動車部品メーカーがどのような企業と取引していたかを示している。当該企業が直接に取引する企業,さらにそれらの企業が取引する企業というようにたどっていくとやがてはトヨタなどの中枢企業に到達する。つまり,新潟のこの自動車部品メーカーは自動車産業のまさに中核的な位置を占めており,だからこそ被災の際に大手自動車メーカーの生産計画に支障を来たすなど被害が広範囲に伝播したといえる。この例のように,ネットワークを可視化(visualize)することにより経済の現状の正確な把握が可能になる。

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研究の目的

研究方法

本研究が目指す貢献

研究計画一覧

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