研究計画

研究計画

研究の背景・目的

不動産市場は、日本を含む世界各国の金融危機の震源となってきており、その性質を深く考察すべき重要な存在である。本研究では、経済学の様々な分野の第一線で研究を進めている研究者が集い、不動産市場の変調が金融危機をもたらし経済成長を抑制するメカニズムを、20年以上にわたり地価下落と低成長が続くわが国において、これまでにない大規模なデータベースを構築した上で明らかにする。本研究の成果は、わが国のみならず、不動産市場の低迷や金融危機からの脱却を模索する諸外国や、現在不動産バブルを経験している諸外国にも分析の世界標準を提供する。

研究の方法

(1)統一的なデータベースの構築と家計・企業・金融機関向けアンケートの実施
(2)不動産市場における価格メカニズムの解明
(3)不動産市場と金融危機・経済成長との関係に係る仮説検証
(4)各仮説の検証を踏まえた不動産市場から経済全体への波及経路の定量化、経済理論や政策へのフィードバックという項目ごとに研究を進める。

(1)では、プロジェクト全体の基礎となる不動産価格データベースを取引事例や公示地価などに基づいて整備するとともに、不動産価格データを、企業や家計に関するデータベースと接合する。データベースでは把握できない情報については、家計、企業、金融機関向けアンケート調査を実施して補完する。
(2)では、一般的な不動産価格の形成メカニズムに関する分析、バブルの早期検出に関する分析を実施する。
(3)では、金融面と実体面からなる以下の仮説を検証の対象とする。
・不動産担保制約仮説
・システミックリスク仮説
・労働・資本の固定化(labor and capital immobility)仮説
・資産効果仮説
・アセットメルトダウン仮説
(4)では、価格メカニズム解明や仮説検証の結果に基づき、不動産市場におけるショックが消費、設備投資、生産といった経済活動にどのような影響をもたらすかを仮説ごとに定量化する。企業間、銀行間、企業と銀行間の取引ネットワークの情報や、不動産や家計、企業、金融機関の立地情報を活用し、地域、産業、その他の企業属性によって異なると考えられる経済活動への影響程度を視覚化する。
こうした作業を通じて、不動産市場の変調が「金融」面と「実体」面のいずれを通じて、経済活動により大きな影響をもたらすか分析する。本研究からは、不動産価格に生じるショックの早期検出や、国土開発政策、マクロ経済運営、マクロプルーデンス政策、金融政策における不動産市場の位置づけなどに関連する政策的な含意が多く得られると見込まれる。このため、内外の公的機関との意見交換を行う。

期待される成果と意義

不動産市場では、得られる情報が未だに限られている。本研究では、取引価格、鑑定価格などの手に入る限りの情報を集めてこれらをデータベース化することにより、バブルなど不動産価格に生じたショックをより正確に特定する手法を開発する。これは、諸外国でもほとんど例がなく、今回が初めての試みである。不動産経済学、マクロ経済学、金融論、空間経済学、産業組織論といった様々な分野で活躍する研究者が、それぞれの観点から不動産市場と経済との関係を明らかにした上で、各仮説の重要性をデータに基づいて定量的に評価する試みも独自のものである。各研究テーマを統一的なデータベースに基づき分析することで、不動産市場から経済への影響程度が最も大きな経路を特定できる。

研究期間と研究経費

平成25年度-29年度
143,900千円