トランス・ポジショナルなケイパビリティ指標作成に向けた国際共同研究

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事業概要

研究目的及び到達目標

 近年注目されているケイパビリティ・アプローチとは、GDPや幸福などの一元的指標を越えて、個々人の多様性や機会の不自由さなどに直接接近し、政策や社会状態を評価する方法である。現実にも、国連の人間開発指標、医療におけるQOL指標、マクロ社会経済指標としてのbeyond GDPなど、広く公共政策の評価に用いられつつある。その特徴は、いわゆる資源アプローチと効用アプローチの弱点を克服できる点にある。だが、その操作的な定式化の方法は自明ではない。先行研究の多くは、結局、分析課題に依存したアドホックな一元的指標に還元されるきらいがあった。本研究の目的は、ケイパビリティ・アプローチに関して優れた理論と実践をもつ海外の諸機関と連携し、その間を移動循環する若手研究者をキイパーソンズとしながら、緩やかな研究ネットワークをつくること、それを基盤に分散する知を集積し、トランス・ポジショナル(位置越境的)なケイパビリティ指標(多元的選択機会集合指標)を構築することにある。具体的到達目標は以下の通りである。

  1. 近年、オックスフォード大学で開発されたAlkire-Foster Method(多次元貧困指標)、プリンストン大学で開発されたbeyondGDP(マクロ社会経済指標)、日本の公共政策で開発されつつある医療・交通・障がいなどのいくつかのケイパビリティ指標(多元的選択機会集合指標)を比較し、相互の特徴を明らかにすること。
  2. パヴィア大学やハーバード大学などでの研究成果を含め、各々の指標の理論や方法(前提とする規範や制約条件)、目的や問題関心を明示し、通底する枠組みを分析すること。
  3. I, II をもとに、ケイパビリティ指標(多元的選択機会集合指標)とそれを支える理論と方法に関するトランス・ポジショナルな構図を構成し、応用例を探求すること。

研究計画・方法

 本研究は、国内外の異なる領域・異なる分野で独立して進められているケイパビリティ・アプローチの定式化について、相互に比較検討することから始める。具体的には、若手研究者の移動と参加をコアとして、(Ia)一橋大学経済研究所規範経済学センター、オックスフォード大学多次元貧困指標開発チーム、プリンストン大学beyondGDP指標開発チームによる研究ネットワークを構築する。これをより広い国際的なネットワークに発展させるために、HDCA学会、ECINEQ学会の誘致を目指す。(Ib)国内における地域公共交通・医療資源計画・障がい者就労支援計画など複数の政策分野の研究者との連携を密にする。(II)これらのネットワークを理論的に支えるために、パヴィア大学やハーバード大学など国内外における厚生経済学における規範哲学的分析と上記ネットワークに蓄積された知見との関係を照合し整理発展させる。この2つのステージは同時に展開され、一定の研究成果の蓄積をみたあと、(III) 政治哲学・市民工学・医療倫理学・社会福祉学・労働経済学との連携を図りながら現実の新旧の政策課題に対する応用に進む。最終的には、具体的な政策提言に結びつけることを目指す。